永禄四年、井伊直政誕生す(柴咲コウ)
時系列は割とシビアに描かれているのだが・・・時の流れの緩急がなんとなくルーズなのでお茶の間に戸惑いが生じているのではないかと思う。
前回の桶狭間の合戦が永禄三年(1560年)五月である。
松平元康が直後に岡崎城を入手し・・・今川勢として防衛体勢を装う。
しかし・・・今川氏真は謀反を疑い・・・元康の室となった瀬名のために井伊直政の娘である母・佐名が・・・兄の南渓瑞聞にもしもの場合の救援を懇願する。
十二月に小野但馬守が奥山朝利を殺害(異説あり)。
つまり・・・桶狭間から半年以上経っている。
明けて永禄四年(1561年)二月、井伊直親の嫡男・虎松が誕生する。
四月に元康が今川方の牧野保成の三河国牛久保城を攻め・・・実質的な今川家臣からの独立姿勢を見せる。
明けて永禄五年(1562年)正月に元康は織田信長と清州同盟を結ぶ。
二月に家康は三河国上ノ郷城を攻め・・・寿桂尼の孫である城主・鵜殿長照は討ち死にする。
虎松誕生から一年・・・桶狭間からは二年近い歳月が経過しているのである。
けして・・・佐名が一夜にして白髪になったわけではないのである。
で、『おんな城主 直虎・第10回』(NHK総合20170312PM8~)脚本・森下佳子、演出・藤並英樹を見た。例によってシナリオに沿ったレビューはikasama4様を推奨します。遠江国の国人衆たちのこの時期の動向は謎に満ちており・・・敗者である今川家に属した井伊家の実像も定かならぬものがございます。今川家臣団としては井伊家と松平家はある意味で同格・・・そして織田と今川の対立関係では桶狭間以後は敵対関係にあるわけでございます。ドラマでは家康の嫡男を産む瀬名の母方の実家が井伊家であることを強調しているわけですが・・・その縁で井伊家が徳川家に臣従するにあたり・・・今川方を代表する敵役が必要となり・・・小野家が利用された形跡が濃厚でございますよねえ・・・。特に徳川幕府が成立して以後の歴史では・・・井伊家が徳川家の敵だった過去にはなるべく触れないのが得策だったと言う他はないのでございましょう。そのために・・・家老である小野家に簒奪されかかった井伊家を徳川家が救ってくださったという物語が成立したのではないかと思う今日この頃です。合戦模様は薄目ですが・・・脚本家は・・・その辺りのことはねっとりと描いてくる感じでございますねえ。
永禄三年(1560年)八月、上杉謙信は里見義堯からの救援要請を受け北条氏康の討伐のために出陣。十月、謙信は上野国沼田城(城主・北条氏秀)を攻略。謙信は厩橋城で越年した。永禄四年(1561年)二月、井伊直親の嫡男・虎松(井伊直政)が誕生。松平元康が三河国東条城の吉良義昭を攻める。三月、謙信は小田原城の包囲を開始する。武田信玄と今川氏真は北条氏康に援軍を派遣する。氏真は手薄になる三河方面の安全保障のために国人衆に追加の人質を要求。三河衆が難色を示すと氏真は三河国吉田城の小原鎮実に命じ、龍拈寺で三河衆の人質を見せしめとして処刑する。鎮実は三河国野田城の菅沼定盈を攻める。四月、謙信が関東より撤退。松平元康が三河国牛久保城の牧野成定を攻める。九月、義昭の家老・富永忠元が本多広孝に討たれ、義昭が元康に降伏する。永禄五年(1562年)正月、元康が織田信長と同盟を締結。二月、氏真が三河国に出兵。三河国上ノ郷城の城主・鵜殿長照が討死。長照の子・氏長・氏次兄弟は元康の捕虜となる。三月、氏真は元康の舅である関口親永と正室(井伊直平の娘)を自害させる。
「氏真公が出陣なさるそうじゃ」
井伊谷館に国衆たちが集結している。
話しているのは井伊家の筆頭家老の中野越後守直由である。
「兵を出せと言われても・・・どの村も人手が足らんずら」
奥山朝重が吐き捨てるように言う。
奥山一族は桶狭間の合戦で多くの戦死者を出している。
農兵たちの被害も大きく・・・領地に残っているのは女子供ばかりだった。
「しかし・・・手勢を出さねば・・・謀反を疑われる惧れがござる」
未亡人となった祐椿尼の兄で今川の目付である新野親矩が立場上の苦しさで告げる。
「けれど・・・直親様の出陣は避けなければなりませぬ」
直盛の遺言によって次席家老となった小野但馬守が反駁する。
「儂が出るわ」
長老の井伊直平が申し出た。
「御隠居様・・・それはいけませぬ」
中野越後守が口を挟む。
「じゃが・・・他に人がおらぬではないか」
「・・・」
「案ずるな・・・戦は川名と上野のものにまかせるわ」
「私が出てはいかんのか」と直親が辛抱たまらず口に出した。
「虎松様がお生まれになったばかりで・・・直親様にもしものことがあれば・・・井伊の血が絶えまする」と小野但馬守が自重を促す。
「備えもせねばならんぞ」と直平が厳しい目をする。
「備え・・・」
「今度・・・負け戦となれば・・・三河衆が遠江に攻め入るかもしれんずらよ」
「いざとなれば・・・川名に退かねばならん・・・」
「奥山、井伊谷、小野に・・・砦を築かねばなりませぬな」
「とにかく・・・兵糧じゃ・・・百姓たちには泣いてもらわねばならん・・・」
男たちは暗い目を見かわした。
次郎法師の率いる坊主忍びたちは・・・国境沿いの警戒に当たっていた。
領内には・・・今川や織田に雇われた伊賀者や甲賀者が忍び入っている。
主を持たない野伏せりたちも蠢動していた。
桶狭間の敗北以来・・・領内の治安は悪化していた。
浜名湖の湖岸には海賊が出没する有様である。
「海は苦手じゃのう・・・」と次郎法師が呟く。
「賊が船で逃げたなら・・・川名衆にまかせる他はありませぬ」と傑山。
「龍宮小僧もかたなしじゃな」
「川名衆こそが・・・龍宮小僧なのでございます」と昊天。
「そうなのか・・・」
「川名衆は・・・河童なのでございます」
「頭に皿があるのか」
「皿はありませぬが・・・水術の達人ぞろいですぞ」
小坊主が駆けて来た。
「気賀の里に賊が押し入ったそうでございます」
「参る」
次郎法師は愛馬に跨った。
坊主忍びが去った後に・・・伊賀の忍びが姿を見せる。
「なかなかの使い手じゃったの」
半蔵は微笑んだ。
「さようでございますな」
下忍の一人が答えた。
「さて・・・先を急ごう」
伊賀者たちは・・・駿河国を目指して走り去った。
関連するキッドのブログ→第9話のレビュー
| 固定リンク
コメント