なりふりかまわないことはわれをわすれること(深田恭子)
中卒の人々がゴロゴロいた頃には中卒はそれほど恥ずかしいことではなかった。
今だって・・・別に恥ずかしいことではない。
戦後のドサクサにまぎれて・・・たとえば一流企業にも旧制中学の卒業生は結構、就職していたわけである。
しかし・・・平和が続いて世情が安定すれば・・・学歴社会になるのである。
一方で成り上がった人々は金にものを言わせて裏口入学をしたりするのである。
そういう社会で・・・低学歴なことは・・・同時に無能だったり・・・怠惰の象徴になる。
情報化社会になり・・・専門的知識が就職に不可欠になっていくにしても・・・知識を習得するための基礎学力が求められることに変わりはないのである。
そして・・・そういう基礎学力というものは・・・義務教育の期間に最も磨かれるのが普通である。
もちろん・・・それは一部のエリートの話である。
中学受験が身近な大都市の話で・・・その中でも中学受験を選択する一部の人々の話。
さらに・・・受験に成功してトップレベルの中学に進学するものとなれば・・・極めて一部の話である。
そこを目指す話がお茶の間に受け入れられるとは・・・到底・・・思えないが・・・夢物語ではなくて現実を突き付けた第8話の視聴率は↘*5.0%だった。
まあ・・・そうだよな。夢も希望もない話だからな。
その上、サービスを怠ってはな。
で、『下克上受験・第9回』(TBSテレビ20170310PM10~)原作・桜井信一、脚本・両沢和幸、演出・吉田秋生を見た。・・・というわけで香夏子(深田恭子)と佳織(山田美紅羽)の入浴サービス復活である。だから・・・サービスって言うなよ。今回は「いちじくニンジン山椒 しいたけごぼうむかご七草白菜きゅうりとうがん・・・ムシャムシャムシャムシャ」と可愛い数え唄つきである。和むよねえ。主題が重すぎるんだから・・・愛想よくしないとねえ。
2016年12月・・・。受験まで残り八週間。
桜井信一(阿部サダヲ)は佳織(山田美紅羽)と桜葉学園の入学願書を購入しに行く。
「今日は・・・願書もらいに行くだけだから・・・ききききき緊張しなくていいぞ」
「お父さん・・・深呼吸」
「スーハースーハー」
緊張して挙動不審になり警備員に不審者扱いされる信一だった。
「あちらでご購入ください」
「え・・・お金がいるの」
入学希望者はお客様なのだから当然である。
しかも・・・学校側は・・・選ぶ立場なのである。
学校案内を見た香夏子は制服があまり可愛くないので落胆するのだった。
「そこかよ」
願書に通知表を添付する必要があると知って信一は小山みどり先生(小芝風花)に面会する。
「お願いがあるんです・・・三学期は・・・受験当日まで休ませてください」
「けれど・・・卒業を控えた三学期は学校行事が目白押しで・・・」
「しかし・・・佳織の一生がかかっているんです」
教師として周囲の目を気にする小山みどり先生だった。
「そうですか・・・蓄膿症ですか」
「え」
「治療のためにお休みが必要ということでは仕方ないですね・・・善処いたします」
「・・・ありがとうございます」
「どちらを受験されるんですか」
「桜葉学園です」
「え・・・他には・・・」
「桜葉学園一本です」
「・・・そうですか」
小山みどり先生は・・・馬鹿な親ゆえの純愛に絆されるのだった。
心の中で・・・信一は・・・馬鹿なことだとわかってます・・・皆さんは憐れな奴だと思うことでしょう・・・しかし・・・これは娘のために絶対に譲れないのです・・・と弁解する。
しかし・・・言えば言うほどお茶の間の人々は・・・信一に悪印象を抱くのである。
出る釘は打たれるのだ。
中卒なのに娘に中学受験をさせるなんて・・・下剋上にも程があるのだった。
しかし・・・高卒や大卒の人々には中卒の気持ちなんかわからないのである。
スマイベスト不動産で長谷川部長から新規の顧客(伊達みきお)の担当を命じられる香夏子。
しかし、心ない顧客は難色を示す。
「ええっ・・・女性ですか・・・大丈夫なんですか」
「彼女は・・・優秀なので」
「失礼ですが・・・大学はどちらですか」
「え・・・」
思わず返答に窮する香夏子。
機転をきかした楢崎哲也(風間俊介)は顧客にお茶をぶちまけるのだった。
「不動産屋コントですか・・・すみません・・・僕は東西大学出身なんですが・・・不調法でして」
「東西大学ですか」
香夏子は楢崎に感謝するのだった。
「すみません・・・私のためにわざとお茶をこぼしてくれて・・・」
「あ・・・バレましたか」
「私・・・わかったんです・・・信ちゃんは・・・いつも・・・ああいう蔑みを受けていたんだなって」
「・・・」
「中卒であることは・・・どうしようもないことなのに・・・やるせない気持ちになりますよね」
「そんなことは・・・本当は・・・何の意味もないのに・・・ですね」
居酒屋「ちゅうぼう」に呼び出される楢崎・・・。
香夏子と一緒に入店すると・・・信一の中卒仲間たち・・・松尾(若旦那)、竹井(皆川猿時)、梅本(岡田浩暉)、そして杉山(川村陽介)は二人の不倫を疑うのだった。
「何を馬鹿なこと考えているんですか」
「俺たちは馬鹿なことしか考えねえ」
信一は楢崎に・・・保護者の面談についてのアドバイスを求めるのだった。
模擬面接官として質問する楢崎・・・。
「桜葉学園を受験するのは何故ですか」
「偏差値が一番高いからです」
「ダメですね・・・教育方針に賛同してとか・・・無難な答えをしてください」
「・・・」
「お母様は・・・どうお考えでしょうか」
「私は・・・公立中学にもいいところはあると思うんですけど」
「ダメですね・・・両親の教育方針に食い違いがあるのは好ましいと言えません」
「・・・」
「ところで・・・本当に桜葉学園一本でいいんですか」
「偏差値も62まであがって来たし・・・もう一息なんだ」
「偏差値62では桜葉は受かりません。桜葉以外の学校を視野に入れてもいいのではないでしょうか」
「俺はさ・・・出身大学はどこかって・・・もう何回・・・訊かれたか・・・中卒大学ですって答えても苦笑さえされない時もある・・・そういうのが嫌なんだよ」
「・・・」
「日本で一番高い山は?」
「富士山」
「富士山ですが・・・日本で二番目に高い山は?」
「二番目・・・」
「富士山はな・・・標高3776メートルで・・・二番目は南アルプスの北岳だよ・・・標高3193メートルだ・・・」
「きただけ・・・知らねえ」
「だろう・・・桜庭じゃなきゃ・・・意味ないんだよ」
「・・・」
「佳織には・・・二番目じゃなくて・・・説明不要の一番に入って欲しいんだ」
楢崎は・・・馬鹿を説得する言葉を見つけることができなかった。
しかし・・・信一の自分勝手な「目標」の前に現実の絶壁が立ちはだかる。
桜葉学園の過去問に挑む佳織は・・・なかなか合格ラインに到達しないのである。
偏差値40~59の壁を突破して・・・偏差値60にたどり着いた佳織だったが・・・そこから偏差値72にあげることは・・・さらに厳しい登攀技術を必要とするのである。
ミスを少なくするだけでは到達できない厳しい傾斜が・・・佳織のモチベーションを下げるのだった。
「登れる気がしない」のである。
正解をする喜びに飢えた佳織は・・・偏差値レベルを下げて過去問をやりたがる始末である。
絶対に「芝女子学園」や「星の宮女子学院」では満足できない信一なのである。
この馬鹿さ加減に・・・お茶の間はかなりゲンナリするわけだが・・・元々が無謀なので仕方ないのである。
三学期・・・佳織は零点シスターズの河瀬リナ(丁田凛美)と遠山アユミ(吉岡千波)に別れを告げる。
「もう学校に来ないの」
「まだ勉強しないといけないの」
「うん・・・」
しかし・・・桜葉学園の過去問の頂きは遠いのだった。
佳織は香夏子に弱音を吐いた。
「私、桜葉学園じゃなくてもいいかな・・・もし・・・どこにも受からなくて・・・公立中学だったら・・・恥ずかしいし・・・きっとみんなにバカにされる」
「そんなことないと思うよ・・・これから・・・みんなに会いに行こうか・・・」
「え・・・いいの」
香夏子は小山みどり先生から・・・六年一組の卒業制作への参加を呼びかけられていたのである。
児童たちは手形モニュメントの制作をしていた。
「ちょうど・・・佳織ちゃんの話をしていたのよ」
「え」
「お前だけ・・・まだだからさ」と大森健太郎(藤村真優)・・・。
「私もやってもいいの」
「もちろんよ」
クラスメートに暖かく迎えられ・・・絵具を塗って手形を残す佳織だった。
そこに・・・徳川麻里亜(篠川桃音)の姿はない。
徳川直康(要潤)も小山みどり先生からの呼びかけを受けていたのだが・・・。
「本当に行かなくていいのか」
「あの学校には特に思い入れがないもの」
「でも・・・佳織ちゃんとは仲良くなったじゃないか」
「だから・・・私にはそれだけで充分なの」
「そうか・・・」
信一はアドバイスを求めて・・・直康を訪ねる。
「やはり・・・併願はしないんだよな」
「麻里亜にとっては・・・桜庭でないと意味がないんだ」
「聞いたよ・・・お母さんも・・・桜庭なんだってな」
「・・・」
そこへ・・・徳川の部下が怒鳴りこんできて・・・会話が中断する。
海外における事業で問題が発生したらしく・・・責任を取らされた部下が錯乱したらしい。
「俺一人に責任を負わせる気か」
「しかるべき時に・・・私も責任を取るつもりだ」
「ふざけるな」
「まあまあ・・・」
仲裁に入った信一は殴られてしまうのだった。
仕方なく・・・信一は一夫(小林薫)を訪ねる・・・。
「山登りと一緒だな」
「爺さん・・・覚えているか」
「俺に日本で二番目に高い山を教えてくれたよ」
「お前にとっての爺さん・・・つまり・・・俺の親父は山登りが趣味だったんだ・・・子供の頃・・・付き合わされてさ・・・結構、高い山に登ったもんだ・・・ところが・・・子供だからすぐにへたばってしまう・・・すると親父の奴・・・後五分で頂上だって言うんだ・・・ところが五分立っても頂上なんて着きはしねえ・・・すると親父の奴・・・後五分だって言うんだよ・・・そうやって誤魔化されているうちに気がつくとてっぺんだった」
「なるほど・・・」
ここで・・・併願に傾くのかと・・・思いきや・・・「今年はいつもより簡単な問題が出るらしい」と佳織に嘘をつく信一である。
信一に対するお茶の間の不快感は頂点に達するのだった。
それなのに・・・まんまと騙されてしまう佳織なのである。
「いつもより簡単作戦」でモチベーションがあがる佳織なのだった。
そして・・・ついに桜庭学園に受かるかもしれないレベルに到達するのである。
もちろん・・・確率的には・・・たまたまなのだが・・・運がよければたまたま合格するかもしれないわけである。
長谷川部長は・・・香夏子を呼び出す。
「明日から・・・出社しなくていい」
「クビですか」
「有給休暇をとりたまえ・・・中学受験は家族全員の団結が不可欠だ」
「ありがとうございます」
思わず部長に抱きつく楢崎。
「お前が抱きつくのかよ」
「僕は部長のこと誤解してました」
「誤解ってなんだよ」
試験前日・・・一夫は神社でお百度参りである。
「親父・・・怪我してんだから・・・無理するなよ」
「馬鹿・・・神様が同情してくれるかもしれないだろう」
「・・・」
試験当日・・・。
佳織と麻里亜はライバルとして視線を交える。
信一は佳織に最後の言葉をかける。
「ここからは・・・佳織一人だ・・・お父さんには受けさせてもらう権利がないからだ・・・そして佳織も一回だけしか権利がない・・・だから・・・どんなに難しい問題にぶつかっても・・・けしてあきらめてはいけない・・・あれだけがんばったんだ・・・きっと答えは見つかる・・・お父さんは・・・今日・・・ここにたどり着いた佳織を・・・誇りに思う」
「・・・」
「行って来い」
「はい・・・」
佳織は・・・ただ一度の本番に挑む。
信一は保護者面談に挑んだ。
「この学校を受験された動機は何ですか」
「娘を愛しているからです」
信一は・・・回想する・・・娘と受験勉強にとりくんだ一年半を・・・そして・・・可愛い娘との十二年を・・・さらに・・・娘が生まれたその日を・・・娘を孕ませたあの日を・・・。
どこまで遡上するんだよというギャグである。
父と娘の下剋上受験は終わった。
「佳織・・・どうだった」
「できたかどうかはわからないけど・・・精一杯やった」
二人は家路に着いた。
家で香夏子はご馳走を作って待っている。
そして・・・合格発表の日である。
受験番号によって・・・先に合格を確認する徳川父娘・・・。
「275・・・276・・・」
佳織の受験番号「277」は・・・つづくである。
まあ・・・高尾山にも登ったことのない人がチョモランマに挑んでいるので遭難は確実なんだけどな。
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