殺らなければ殺られるだけの存在(綾瀬はるか)
物語の語り手が思うことと物語の聞き手が思うことが同じとは限らない。
人の心ほど定かならぬものはない。
人間関係とはつまり主従関係である。
夫婦にも主従があり、親子にも主従があり、友人にも主従がある。
政治家にも主従があり・・・国家にも主従はある。
主従関係がないということは敵対関係なのである。
それではあまりにも荒涼としていると感じる人もいるだろう。
もちろん・・・潤いというものは・・・そういう主従関係や敵対関係を越えたところにある。
主人に優しくしてもらった奴隷・・・敵に助けられた味方・・・そこは泣くところである。
日本が不自由極まりない国だと思って・・・外国に行けば・・・どれだけ不自由を感じることか。
つまり・・・ファンタジーとはそれを明らかにする話なのである。
ここではないどこかにもまた・・・いろいろ面倒なことが待っているに決まっているのだ。
で、『精霊の守り人II 悲しき破壊神・最終回(全9話)』(NHK総合20170325PM9~)原作・上橋菜穂子、脚本・大森寿美男、演出・中島由貴を見た。なんとなく・・・たくさんお金を使いました・・・という雰囲気だけが漂う本作品である。しかし・・・それはあくまでテレビ番組の制作費ということでは・・・という話である。あえて言うならば・・・お金のかかった少年ドラマシリーズというべきか。なんか・・・なんかな・・・ちゃっちいんだよな。それでも・・・ファンタジーをやろうという心意気だけは高く評価したい。
たとえば・・・船舶の発達の加減がわからない。
基本的には帆船時代なのであろう。
しかし・・・火薬の使用は限定的で・・・大航海時代には欠かせない大砲の搭載はないわけである。
タルシュ帝国の全人口はどの程度なのだろうか。
それに比べて新ヨゴ国の全人口はどうなのだろう。
大陸間の戦争となれば・・・海軍の輸送力が問われるわけである。
南北大陸に横たわるサンガル王国の海域はどの程度の広さなのだろう。
モンゴル帝国でさえ・・・日本海に遮られて・・・日本への侵略に失敗するわけである。
当時世界最強の武力を持っていた16世紀の豊臣秀吉軍も・・・朝鮮半島の征服には成功しなかった。
渡海の問題は・・・戦争の可否にそれほど影響するわけである。
まあ・・・他人の作るファンタジー世界に・・・リフリティーを求めても無駄なんだけどな。
バルサ(綾瀬はるか)の鉄拳を甘んじて受け入れたヒュウゴ(鈴木亮平)だった。
「・・・」
「やり返してはこないのか」
「私にはあなたと戦う理由がない」
「お前はチャグムの敵ではないのか」
「敵か・・・味方か・・・それしかないのですか」
「チャグムの敵は私の敵だ・・・用心棒とはそういうものなのだ」
「私は・・・タルシュ帝国の密偵ですが・・・同時に滅ぼされたヨゴ国の民でもある」
「・・・」
「私は・・・タルシュ帝国の密偵として・・・チャグム皇太子を追いつめた・・・しかし・・・同時に虜囚としての立場から彼を解放した・・・」
「死の淵に追い込んだことには変わりがあるまい」
「しかし・・・チャグム皇太子は・・・生き延びられた・・・」
「・・・」
「私は・・・見たかったのです・・・ヨゴの王家の血を引く若者が・・・これから何を成し遂げるのか」
「チャグムが・・・何をするかだと・・・」
その時・・・バルサは火の匂いを感じた。
「燃えている・・・これは・・・家に火をかけられたな」
「こんな街中で火攻めだと・・・」
「こちらへ・・・」
ヒュウゴは隠れ家の脱出路にバルサを導く。
隠れ家の裏手は路地裏に続いている。
反対側には火の手があがっている。
「こんなことをするのは・・・ロタの兵隊ではないな・・・」
「気をつけろ」
バルサは飛来する矢を短槍で打ち落とした。
「どうやら・・・狙いは俺のようだ」
「私についてこい」
バルサを次々に飛来する槍を払いのけながら・・・ツーラムの水路へと向う。
腿に矢を受けたヒュウゴを庇いつつバルサは小舟に乗り込んだ。
「水の流れはゆるやかだ・・・追手を逃れるためには上流に漕ぐしかない・・・」
なんとか・・・危地を脱した二人は水路から川へと小舟をこぎ進める。
「これで・・・腿を止血しろ」
バルサはヒュウゴに革ひもを渡した。
「すまない」
「矢を抜くぞ」
「・・・」
「毒が塗ってあるな」
「大丈夫だ・・・私に毒は効かぬ」
「そうか・・・」
「襲ってきたものたちの見当がついているようだな」
「弓を射ったものたちに見覚えがある・・・」
「・・・」
「あれは・・・ロタ王国に仕えるカシャル(猟犬)たちだ・・・」
「なるほど・・・俺をタルシュの密偵と知ってのことか」
「そこまではわからん」
「それにしても・・・さすがはバルサだな・・・顔が広い」
「カシャルたちの狙いを・・・確かめねばならない」
「俺がいては・・・まずいな」
「お前には・・・この舟をやる・・・しばらく・・・流れていくがよい・・・」
「よいのか・・・これは・・・チャグム殿下の救出のために用意したものだろう」
「私は今・・・懐が温かいんだよ」
「そうか・・・用心棒としてあなたを雇っているものは・・・二ノ妃だな」
「・・・」
「チャグム殿下に会ったら・・・一つ伝えてもらいたいことがある」
「なんだ・・・」
「新ヨゴ国とロタ王国の同盟が難しいと考えたら・・・ロタ王国とカンバル王国の同盟によって道が開けると」
「何・・・」
「カンバル王国と新ヨゴ国の間には・・・緩やかな同盟関係がある。カンバル王国とロタ王国が同盟を結ぶことが出来れば・・・三国同盟の目がある。そうなれば・・・タルシュ帝国にもうかつな武力行使には踏み切れぬ・・・」
「面倒な駆け引きだな」
「国と国との・・・争いなどというものは・・・面倒なものだ」
「・・・とにかく・・・お前の言葉は伝えよう・・・もう・・・行け・・・追手の匂いがする」
バルサは小舟を押しだすと・・・川面を歩きだす。
バルサは間合いを計って叫んだ。
「カシャルの方々とお見受けする・・・私の名はバルサ・・・私はカシャルと戦うつもりはない」
木陰からカシャルの弓手が現れた。
「バルサか・・・あなたの名前は知っている」
「私は・・・カシャルの頭に問いたいことがある・・・案内してもらえないか」
バルサは短槍を地面に刺し・・・敵意のないことを伝える。
「よかろう・・・しかし・・・この地にある隠れ里に行くためには目隠し願いたい」
「我が目を塞ぐがよい」
目隠しをすることは・・・相手に命を委ねることに等しい・・・。
カシャルの弓手が合図をすると・・・潜んでいたカシャルのものたちが姿を見せる。
「手縄をも必要だ」
「我が手を縛るがよい」
バルサは縛られて・・・カシャルの隠れ里に向う。
ツーラムの郊外にあるカシャルの隠れ里の頭領はアハル(中島唱子)と言う肥満した中年女だった。
縄を解かれたバルサは座る場所を与えられる。
「あんたが・・・バルサかい・・・あんたの名前は・・・王都のものから聞いている・・・御活躍だったそうじゃないか・・・」
「スファルとシハナには世話になった」
「困った父娘だよ・・・親子で割れてはお勤めに支障があるからね」
「・・・」
「それで・・・あの男とはどういう関係だい」
「あの男には・・・尋ねたいことがあったのだ・・・」
「何をだ・・・」
「私は・・・少年を捜している」
「あの男の正体を知っているのか」
「タルシュの密偵だと言っていた」
「正直だねえ・・・噂通りの人だね・・・あんたは」
「私の捜している人は・・・スーアン太守の城にいるらしい・・・何か・・・城に入る手立てはないだろうか」
「そういうことは・・・もう少し・・・気心が知れてから・・・頼むものだ・・・今夜はここで休んでお行き・・・私が手料理でもてなそう」
それを食べると・・・太るのではないかと思うバルサだった。
案の定・・・料理は美味だった。
もりびとシリーズの肥満体トリオ結成である。
四路街のマーサ(渡辺えり)・・・サンガルの女海賊(森久美子)・・・そしてカシャルのアハル・・・。
なんだろう・・・スタッフが肥満熟女好きなのか。
そして・・・四人目はスーアン(品川徹)の孫娘・ユラリー(信江勇)である。
実年齢が上から・・・渡辺えり(62歳)、森公美子(57歳)、中島唱子(50歳)なので・・・信江勇(28歳)は若手のデブっちょと言えるだろう。
しかし・・・ユラリーは年齢不詳である・・・おませな幼女のようなしぐさも見せるが・・・単に愚鈍なのかもしれない。
侍女から・・・新ヨゴ国の貴公子の噂を聞き・・・チャグムが軟禁されている部屋を訪れたユラリーだった。
「侍女から・・・素敵な人だと聞いて・・・会いに来たの・・・だって・・・侍女では高貴な方のお相手はつとまらないでしょう」
「あなたは・・・」
「私は・・・ユラリー・・・スーアン城の主・・・スーアン太守は私のおじい様なの」
「え・・・それでは・・・スーアン様にお引き合わせいただけますか」
「それは・・・無理なのよ・・・あなたの望みはかなえたいけど・・・」
「それでは・・・せめて城の外に出られないでしょうか」
「それはダメよ・・・お城の外は・・・危ないもの」
「・・・それでは・・・せめて・・・庭に・・・」
「お庭?」
「美しい夜の庭をあなたに・・・案内してもらいたいと」
「いいわよ・・・」
ロマンチックな気分でユラリーは蝋燭ひとつを灯し・・・チャグムと庭に出る。
チャグムは城壁の低そうな場所を求めて暗がりへと進む。
「ロマンチックねえ・・・」
「それでは・・・しばらく・・・目をお閉じください」
「まあ・・・」
ユラリーはうっとりとした顔で目を閉じる。
チャグムは蝋燭の火を消す。
しばらく・・・待って・・・ユラリーが目を開くとチャグムは姿を消していた。
「いやああああああああああああああ」
夜の庭に響き渡るユラリーの絶叫。
チャグムは壁を乗り越えようと足場を捜していた。
その時・・・背後からスーアン城の侍女(花影香音)がチャグムに声をかける。
「あ・・・お前は・・・お世話係」
「こちらへ・・・」
「・・・」
「城を出たいのでしょう」
「え」
侍女は・・・抜け穴を知っていた。
「なぜ・・・こんなものが・・・」
「私は・・・ロタ王に仕えるカシャルの女です」
「カシャル・・・ロタ王の親衛隊か・・・つまり・・・間諜か・・・」
城の外に馬が待っていた。
「準備がいいことだな」
「急いでお行きください」
「王都はどちらだ・・・」
「馬が知っています」
「ええっ」
「お気をつけて」
チャグムが騎乗すると・・・馬は走り出した。
まるで何者かに操られているように・・・。
動物使いのカシャルは・・・特別な力を持った呪術師でもあった。
チャグムの乗った馬を操るのは・・・アハルだった。
頭痛に顔をしかめてバルサは目覚めた。
「私に・・・薬入りの料理をご馳走してくれたのかい」
「ぐっすり眠れたろう」
「なぜだ・・・」
「チャグム皇太子は・・・昨日のうちに・・・城から逃げたよ」
「・・・」
「チャグム皇太子は・・・新しい・・・ロタ王と会いたがっていたからね」
「なぜ・・・私を眠らせたのだ」
「シハナがね・・・あんたを巻き込むと厄介だからって言うからさ」
「・・・」
「追えば・・・いいよ・・・ロタ王のもとで・・・チャグム皇太子に御目通りすればいい」
バルサはチャグムを追って馬を走らせた。
逃げたチャグムにはスーアンが追手を出していた。
タルシュにチャグムを匿っていたことが知られれば裏切り行為と見なされるからである。
スーアンの兵士たちは・・・王都の郊外の村でチャグムに追いついた。
チャグムは疲れ果てて粗末な宿で眠っている。
しかし・・・精霊の声が・・・危険を知らせるのだった。
目覚めたチャグムは暗殺者に包囲されていた。
「何者だ」
「死ね」
必死に暗殺者の剣から身をかわすチャグム・・・。
そこにカシャルのシハナ(真木よう子)が現れた!
「大の男がよってたかって・・・子供一人を襲うのかい」
「なんだ・・・この女・・・」
「ご挨拶だねえ・・・」
「邪魔すると・・・怪我をするぞ」
言った男はシハナの短剣に貫かれていた。
「こいつ・・・カシャルだ」
「そいつも殺せ」
殺到する暗殺者たち・・・。
しかし・・・バルサと互角に渡りあうシハナの敵ではない。
暗殺者たちはたちまち骸となった。
「あなたは・・・」
「私はシハナ・・・新国王・・・イーハン様に会いに来たのだろう」
「・・・」
「案内するよ」
チャグムが南北対立で揺れるロタ王国を彷徨っている頃・・・国境を封鎖した新ヨゴ国では星読博士のシュガ(林遣都)が帝(藤原竜也)が「星相」について奏上していた。
「ただならぬ・・・星相が現れております」
「申してみよ」
「吉凶が相克する相です・・・これは古きものが滅びる凶と新しきものが生れる吉のせめぎあう相なれば・・・」
「そのようなことは当たり前ではないか・・・」
「民のためを思えば・・・タルシュ帝国に降伏するのもまた道かもしれませぬ」
「そなたは・・・命が惜しいか」
「滅相もございませぬ」
「新ヨゴ国が滅びるのが天命ならば・・・民も国とともに滅びることこそ・・・美しいと思わぬか」
「・・・」
「朕は・・・新ヨゴ国を汚れなき世界へと導く・・・美しき帝になりたいのじゃ」
帝の言葉に逆らうものはなかった。
聖導師(平幹二朗)は密かにシュガを呼び出した。
「お前の申すことにも理があると思う」
「・・・」
「お前の教えを民に広めるべきだろう」
「私は・・・誰かが・・・そう言うのではないかと・・・密かに案じておりました」
「・・・」
「それが・・・内通者の証だからです・・・まさか・・・聖導師様が・・・」
「そうだ・・・私は・・・タルシュ帝国に通じておる」
「・・・」
「それとも・・・お前は・・・新ヨゴ国の民が・・・自分のことしか考えぬ・・・わが身のためにわが子を殺すこともいとわぬ・・・あの帝とともに滅びるのがいいと・・・思うのか」
シュガは絶句した。
王城のイーハンは物憂い日々を送っていた。
「シハナか・・・何をしにきた・・・そちらのものは・・・」
「新ヨゴ国のチャグム皇太子殿下でございます」
「チャグム・・・」
「イーハン陛下・・・お願いがあり・・・参上いたしました」
「チャグム殿下・・・そなたのことは兄から聞いている」
「では・・・」
「同盟はできぬと・・・兄も申していただろう」
「しかし・・・それでは・・・北の大陸はタルシュ帝国に蹂躙されます」
「だが・・・そなたの父の帝は・・・同盟を望まぬと聞いた」
「・・・」
「そのような状況で・・・皇太子殿下と何を約することができようか・・・」
「わかりました・・・では私はこれより・・・カンバル王国に参ります」
「カンバル王国に・・・」
「カンバル王に・・・ロタ王国との同盟を説きに参ります」
「なんと・・・」
「もし・・・それが・・・成功したならば・・・どうか・・・王にご同意願いたい」
チャグムは涙を流した。
「なぜ・・・泣く・・・」
「カンバル王と手を結ぶことは・・・恩ある人を裏切ることになるからです」
「それは・・・カンバル出身の短槍の名人のことか・・・」
「え・・・バルサをご存じなのですか」
「些少は・・・そなたの・・・望みは承った・・・しかし・・・カンバル王が応じることは万に一つもあるまい」
「だが・・・他に手立てはないのです・・・それが・・・私の考え抜いた答えなのです」
バルサが王都に到着した時・・・すでにチャグムはカンバルへと旅立っていた。
バルサをシハナが出迎えた。
「今度は・・・チャグムを利用しようとしたのか」
「いや・・・そのつもりはない・・・私は・・・イーハン王に仕える者として・・・チャグム殿下を案内しただけだ・・・南部のものたちに・・・チャグム殿下が利用されることを・・・避けたかったのだ」
「・・・」
「信じられないかもしれないが・・・私はバルサに感謝している」
「・・・」
「私は恐ろしい夢を見ていたのかもしれない・・・悪夢から救い出してくれたのはあなただと思っている」
「私は・・・ただ・・・」
「わかっている・・・バルサは幼きアスラをただ・・・守りたかったのだろう」
「・・・」
「しばし・・・待たれよ・・・」
「どうした・・・」
「王都のカシャルの集落が襲われた・・・父上が・・・」
カシャルが動物使いである以上・・・人に心を伝える術も持っているのである。
成り行きでシハナとカシャルの集落へと向うバルサ・・・。
集落の広場にシハナの父・スファル(柄本明)は吊るされていた。
「父上」
「来るでない・・・」
バルサとシハナに殺到する・・・襲撃者たち。
「南部のものたちか・・・いや・・・ちがうな・・・」
村に火を放つ火炎放射器を持った男たち。
「あれは・・・タルシュ帝国の武器らしい・・・」
「タルシュの密偵部隊が・・・こんなところに」
「バルサ・・・行け・・・チャグム殿下も追われているだろう」
「お前も逃げよ・・・」とスファルが呟いた。「儂が霧を呼んでやる」
スファルは死力を尽くして・・・霧隠れの術を使った。
たちまち・・・視界は閉ざされる。
カンバル王国へ続く山道を進むチャグム・・・。
精霊が危機を知らせる。
「追手か・・・」
馬が矢に貫かれ・・・チャグムは馬上から投げ出される。
チャグムは走って逃げ始める。
しかし・・・追手たちは剣を翳して迫るのだった。
絶体絶命・・・その時、のけぞったのは追手だった。
「その者に手を出すな・・・」
「バルサ・・・」
「いいかい・・・私の背中から離れるんじゃないよ」
「バルサ・・・」
「お前たち・・・退かぬなら・・・容赦はしないよ」
追手たちは退かなかった。
バルサは・・・封じていた全力を出す。
たちまち死体の山が築かれる。
無敵の短槍使いの復活である。
追手たちは全滅した。
「バルサ・・・どうしてここに・・・」
「チャグム・・・忘れたのかい・・・私はお前の用心棒だよ」
そして・・・物語は・・・漸く・・・最終章へと進むらしい・・・。
続きは・・・今秋である。
関連するキッドのブログ→第8話のレビュー
| 固定リンク
コメント