2017年4月21日 (金)

永禄九年、北条相模守氏康隠居となる(柴咲コウ)

ドラマはあくまでフィクションである。

大河ドラマの背景には・・・史実という原作があるわけだが・・・正史はもとより伝承もすべてフィクションと考えることができる。

事実とはことなる・・・後世の「つくりごと」にすぎない。

しかし・・・「つくりごと」の存在の共有は・・・「文化」というものを促すわけである。

自称公共放送の国会における答弁を覗っていると・・・「国」は今も「文化」によって「国」という「つくりごと」を維持することを心がけていることがよくわかる。

「地方の活性化」による「国家」の発展や・・・共通の「歴史認識」による「国民」の育成は・・・あらゆる格差が内乱に繋がることを抑制するための安全装置だからである。

武力の行使を認めないという隷属的なコンプライアンスを維持するために・・・「暴力」が絶対的に悪であるこの国では・・・いつしか・・・歴史的な人物が・・・多くの場合・・・大量殺人の首謀者であることに頭を悩ますようになっている。

そのために・・・大河ドラマの主人公も・・・戦国時代に生きているにもかかわらず「戦はきらいだ」と主張しなければならないらしい。

実在したのかどうかもわからない・・・井伊次郎法師直虎の都合がいいのは・・・誰も殺していないかもしれない人物だということに尽きるのだろう。

系図的には直虎の伯父である井伊直親が暗殺されたと思われる永禄五年から・・・今川義元の母である寿桂尼が死去する永禄十一年まで・・・井伊一族と今川家の関係はいろいろと謎に包まれている。

そもそも・・・この時期には・・・井伊次郎は二人いたのかもしれないのである。

一人はおそらく・・・今川義元の側室となった井伊直平の娘が産んだ関口氏系の次郎。

そして直平の孫・直盛の娘である次郎法師である。

遠江国の守護である今川氏真が派遣した関口次郎と・・・井伊家の相続者として出家のまま地頭を称した次郎法師と。

相続争いというものは普遍的な出来事である。

家督継承のために今川義元も兄弟で殺し合ったし・・・織田信長も同様である。

井伊谷城でも・・・それは起きていたに違いない。

分家の分家でありながら・・・地縁・血縁で勢力を拡大する奥山家と・・・本家の家老家であり、今川の目付でもある小野家・・・それぞれが・・・総領となる井伊直政の争奪戦を繰り広げているわけである。

だが・・・そんな茶碗の中の戦争は・・・やがてくる大戦の前に・・・飲み込まれてしまうのである。

で、『おんな城主  直虎・第15回』(NHK総合20170416PM8~)脚本・森下佳子、演出・福井充広を見た。例によってシナリオに沿ったレビューはikasama4様を推奨します。地縁・血縁の描き方と中央政府と地方自治体の軋轢・・・そして主従関係の描写・・・これらがかなり入り混じっているので・・・ある意味・・・わかりにくい感じになっているのかなあ・・・と考えています。通説では・・・荘園制度が終焉するのは太閤検地によるものということになりますので・・・それまでは・・・領主と領民の間にはかなりゆるやかな支配関係があると考えるのが普通でございますよね。基本的に農民たちも武装勢力の一つの単位であって・・・その証拠に三河国では一向一揆の鎮圧に家康が一年をかけているわけです。あくまでドラマですので・・・桶狭間の敗戦によって・・・村人が減少したために・・・農業に専念している感じなのだとも解釈できないこともないのですが・・・その割には村人の男たちは・・・かなり戦力になる感じの年頃です。脚本家とお茶の間の間の幻想の兵農分離が暗黙の了解をしているというところでしょうか。下剋上によってもっとも身分格差の少ないのが戦国時代と考えるキッドにとって少し歯がゆい気もいたします。黒沢明監督の「七人の侍」によって描かれてしまった妄想の「腹の減った侍を雇う百姓」の存在が・・・大きく影響しているに違いない。農閑期に戦をする・・・つまり・・・地域住民の全員が武力を持っているのが普通であり・・・兵農分離により職業的軍人が育成され・・・士農工商の土台が作られていく過渡期・・・せっかく・・・コップの中の戦争を描くなら・・・そういう視点も欲しかった気がする今日この頃でございます。

Naotora015 伝承・・・遠江国小野に光月坊主という悪僧あり、龍譚寺の和尚は法力によって光月を懲らしめ、光月は神となって村人のために尽くせり・・・。伝承・・・遠江国都田(川名)に大淵ありて龍宮に通じると伝わる。大淵より龍宮小僧が現れ村人の困窮を救うとされる。永禄九年(1566年)、上野国厩橋城の上杉家直臣・北条高広が北条方に臣従する。北条氏康は隠居し、氏政が家督を継承する。永禄十年(1567年)、今川氏真の妹を正室とする武田義信は自刃。北条氏政は上総国三船山で里見氏と対戦し大敗を喫する。織田信長は美濃国の斎藤龍興を攻め、稲葉山城は落城。龍興は伊勢国に敗走する。信長は稲葉山城を岐阜城に改名。天下布武を宣言する。正親町天皇は信長を「古今無双の名将」と褒めたとされる。越前国の朝倉義景は加賀国一向一揆勢との合戦に勝利し、足利義秋を一乗谷の安養寺に迎える。永禄十一年(1568年)三月、今川義元の母・寿桂尼が死去。今川家を支えた最後の支柱が折れ・・・西の徳川、北の武田は虎視耽々と駿河国・遠江国の今川領土に狙いを定めていた・・・。

井伊谷城に小野但馬守が登城する。

城と言っても米蔵や武具蔵と領主館があるに過ぎない。

防衛拠点としては裏手の龍譚寺の方が優れている。

領主館も古びている。

合議のために国衆たちが集まる広間で・・・直虎は但馬守と面会した。

「今川から何か申してまいったか・・・」

「虎松様の後見人の件でございます」

「後見人が女の私では承知できないということか」

「いえ・・・直平様の姫が嫁がれた瀬名家に男子がおられまする」

「瀬名様の他にか・・・」

「瀬名次郎様でございます」

「とんと聞かぬな」

「瀬名次郎様に井伊次郎を名乗らせ・・・虎松様元服までのつなぎとせよという・・・氏真様の思し召し」

「妾がよいというても・・・亡き直親殿の後家が・・・へそをまげよう」

「・・・しかし・・・瀬名次郎様には関口氏経様という後見人も決まっておりまする」

「瀬名家も関口家も・・・氏真様に怨みはないのかのう」

「・・・」

「氏真様はすこし・・・気がふれておいでなのではないか」

「しかし・・・何と申しても遠江国の守護であらせられまする」

「但馬守よ・・・汝れの好みの・・・唐風ならば・・・いや・・・義元公が御存命ならば・・・それも好き道かもしれぬが・・・」

「律や法度は・・・まつりごとの要でございますぞ」

「いつまで・・・法度を定めた今川の世が続くかのう・・・」

「なんと・・・」

「龍譚寺の忍び坊主たちの集めし話によれば・・・武田家は今川家と手切れをする気配がある」

「え・・・まさか・・・そのようなことが」

「武田家では・・・総領息子の義信殿が腹を切らされたという噂じゃ」

「・・・」

「なにしろ・・・義信殿の正室は・・・今川の姫君・・・」

「それが・・・手切れの前触れと・・・言われるのか」

「武田と徳川の間者が・・・国境を越えて往来しておる・・・」

「遠江国は信濃国と三河国の通り道でございますれば・・・」

「もし・・・武田と徳川が密約をかわしておったらなんとする」

「しかし・・・武田と今川・・・そして北条には三国の同盟がございまする」

「北条家は義元公の例にならって生前贈与をしたようだが・・・跡目を継いだ氏政公は大敗したそうじゃ・・・」

「・・・お耳が早い」

「代変わりに負け戦となれば・・・北条も・・・今川にかまってはいられまい」

「・・・そこで武田が手のひらを返すと・・・」

「もしも・・・三国の契りが破れるようなことあれば・・・井伊の家も身のふりかたを考えねばならぬ・・・」

「今川を裏切ると仰せなのですか・・・聞き捨てできませぬぞ」

「考えてもみよ・・・徳川が攻めてくるとなれば・・・井伊谷は矢面ぞ・・・」

次郎法師と小野但馬守は・・・暗い目でみつめあった。

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2017年4月12日 (水)

永禄九年、足利義昭越前国に入る(柴咲コウ)

将軍候補となった足利義昭は・・・三好三人衆に追われて亡命を続ける。

その間にも・・・各国の諸将に・・・上洛を促している。

交戦中だった尾張国の織田信長と美濃国の斎藤龍興に対して永禄九年(1566年)四月、停戦を命じ・・・両者は応じて和議を結ぶ。

しかし・・・八月に信長が上洛のための兵をあげると・・・龍興はこれを攻撃・・・停戦合意はやぶられる。

信長が仕掛けたのか・・・龍興が仕掛けたのか・・・。

まあ・・・停戦合意の順守は・・・口約束では守られないわけである。

永禄八年(1565年)五月の永禄の変によって第13代将軍であった足利義輝が暗殺されてから・・・事実上、将軍は空位なのである。

そのために朝廷は直接・・・各地の武将に指示を下していることになる。

足利幕府体制は・・・風前の灯状態なのであった。

政治システムはつまるところ・・・自由と平等の相克である。

律令体制とは平等に軸があり・・・つまり私有財産を認めないのが前提である。

一方、荘園制度は自由に傾斜して・・・各地に実力者が発生する。

国人領主とはいわば・・・独立した市町村の長なのだ。

その中で・・・実力で他を圧して戦国大名が誕生するわけである。

今川義元は・・・相続争いに勝利して・・・駿河国、遠江国、三河国を制し・・・独自の法治国家を築いた。

だが・・・将軍が暗殺されてしまう御時勢である。

戦争を仕掛けて敗戦し・・・討死という最悪の結果を招いた今川家はたちまち没落の坂を転がり落ちる。

本国である駿河国はなんとか・・・治められても・・・三河国はすでに徳川家康が制覇し・・・遠江国への支配力は弱まって行く。

今川氏真は・・・疑心暗鬼に囚われ・・・次々に家臣を誅殺していった。

井伊谷の女性村長は・・・その中で・・・なんとか・・・井伊谷村を守ろうとするわけである。

これは・・・そういうお話・・・。

で、『おんな城主  直虎・第14回』(NHK総合20170409PM8~)脚本・森下佳子、演出・福井充広を見た。例によってシナリオに沿ったレビューはikasama4様を推奨します。中野直之は血気盛んな青年団風でございますよね。対する奥山六左衛門朝忠は小心者の助役風でございます・・・。やはり・・・城主というより・・・直虎は村役場の長的な感じがいたします。もはや・・・乱世が沸騰している永禄年間でございますので全国的な「システム」は崩壊しているわけですが・・・まだ本格的な兵農分離はなされておらず・・・守護と地頭の支配関係も地域的には成立しているわけです。この辺りは・・・識者の間でも意見が分かれるところですし・・・一般的な武士と農民に対する漠然としたイメージにどこまで斬り込むのかも匙加減が難しいところですよねえ。楽市が信長の独創でないように・・・兵農分離も・・・支配者的には目指したいところの一つであったはず。しかし・・・実際は村は一種の独立勢力ですし・・・国人領主はそれをまとめる首長のようなもの。しかし・・・その支配権は大小ありますし流動的でもございます。井伊谷城主と言う立場は・・・かってはかなりの広範囲に支配を及ぼし・・・多くの分家に支えられた本家としての権威があったのでしょうが・・・桶狭間の敗戦により・・・今川家の支配が緩み・・・同時に井伊家の支配も弱まったと考えられます。今川家は中央集権を目指し・・・井伊家は地方自治を目指しているというニュアンスもありますが・・・そういう政治的な話と・・・かっての許嫁に対する過剰な乙女心の物語が今の処・・・かなりミスマッチでございますよねえ・・・。まあ・・・小野但馬守の・・・片思いの人に尽くせば尽くすほど・・・嫌われ疎まれ憎まれていく感じが・・・描きたいのだ・・・と言われればなるほどベル薔薇と思う他ない今日この頃でございます。

Naotora014 大宝ニ年(702年)、文武天皇は大宝律令を諸国に頒布。貞永元年(1232年)、北条泰時は御成敗式目を制定。貞和二年(1346年)、足利尊氏は刈田狼藉の検断権を守護の職権へ加える。大永六年(1526年)、今川氏親は今川仮名目録を制定する。氏親は守護使不入地に対して検地を行う。天文二十二年(1552年)、今川義元は今川仮名目録追加を制定。義元は室町幕府による守護使不入地を否定する。永禄八年(1565年)、井伊直虎は龍潭寺に寺領を寄進する。武田信玄は今川氏真の妹を正室とする義信を廃嫡。永禄九年(1566年)、氏真は井伊谷と都田川の国人領主(地頭)に対して徳政令を出す。直虎は曾祖父・井伊直平の菩提を弔うために川名の福満寺に鐘を寄進。永禄十年(1567年)、義信は自刃。永禄十一年(1568年)三月、氏真の祖母・寿桂尼が死去。十一月、次郎法師と関口氏経が蜂前神社に徳政令を施行する。

川名の郷と曳馬の城は都田川で結ばれている。このラインは古に皇子に従った井伊介の東側の縄張りと言ってもいいだろう。

永正十年(1513年)に尾張守護の斯波義達は旧領である遠江国に出陣し、遠江守護を兼任する駿河守護の今川氏親に挑む。

遠江国の国人領主だった大河内貞綱や井伊直平らは斯波義達に従うが・・・曳馬城を巡る攻防戦で今川衆の朝比奈泰以や飯尾賢連に敗れ・・・永正十二年(1515年)に大河内貞綱は自害・・・井伊直平の縄張りは後退した・・・。

井伊直平はこの後・・・今川家の相続争いとなる花倉の乱では・・・自害に追い込まれる玄広恵探に従い・・・桶狭間の合戦では孫の井伊直盛が今川義元に従って討死する。

ある意味・・・負け馬に賭け続けた武将・・・それが井伊直平である。

最後は・・・今川氏真の指図で謀反人の討伐に向う途中で陣没した・・・曾祖父を・・・次郎法師直虎は悼むのだった。

現世に悲嘆した直平は・・・後生に望みを託して・・・龍譚寺を建立した。

直虎は龍譚寺の尼として・・・経を読み・・・曾祖父の隠居地であった川名の菩提寺に梵鐘を献じた。

「親父殿も・・・可愛いひ孫に経をあげられて喜んでおられることよ」

直平の庶子(妾の子)だった龍潭寺二世住職の南渓和尚は微笑んだ。

「和尚様・・・」と直虎は問う。「井伊谷の荘は・・・どうなってしまうのでしょうか」

南渓和尚は返答に窮する。

龍譚寺の本堂には二人きりであるが・・・近頃は・・・忍びの気配を常に感じる。

うかつなことは口に出せないのである。

「今は・・・井伊に従うものどもも・・・息を潜めて待つしかない」と南渓和尚は無難な言葉を選ぶ。「虎松(後の井伊直政)の元服を待つ他はないのでござるよ」

二人が去ると本尊の陰から昊天が現れる。

昊天は寺領の見回りのために・・・龍譚寺を一人で出た。

途中の道端に一人の乞食坊主が蹲っている。

「井伊谷に・・・とくにかわったことはない・・・」

「ありがとう存じます」と乞食坊主は伏せながら・・・囁く。「甲斐と駿河の手切れ・・・迫っておる」

「御仏の・・・お導きか・・・」

「まもなく・・・三河の殿も・・・」

「心得た」

昊天は会釈して・・・歩み出す。

乞食坊主もまた・・・反対側へと去って行くのだった。

乞食坊主は・・・伊賀の忍び・・・服部半蔵である。

そして・・・昊天は・・・井伊谷に古くから・・・草として潜む服部一族の末裔だった。

昊天は忍びとして・・・長き眠りから・・・目覚めようとしていた。

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2017年4月 3日 (月)

永禄九年、今川氏真徳政令を発す(柴咲コウ)

永禄七年(1564年)九月、曳馬城主・飯尾連竜を攻めた今川勢は苦戦し、今川氏真配下の井伊谷衆の実質的な旗頭である中野直由や井伊直盛未亡人・祐椿尼の兄である新野左馬助親矩が討ち死にしたとされる。

さらに氏真の傅役である三浦正俊までが討ち死にし・・・結局、氏真は連竜と和睦した。

だが・・・連竜は永禄八年(1566年)十二月に氏真に駿府で成敗されるのだった。

和睦しておいて暗殺・・・これが今川家の常套手段であるのは明らかで・・・・こんなことばかりやっていたから・・・あんなことになるのだ・・・と思う人は多いだろう。

一方・・・主人公が「国」と言う・・・井伊谷という遠江国の浜名湖以北の一帯の勢力図はもはや混乱の極みとなっている。

永禄三年に井伊直盛、永禄五年に井伊直親、永禄六年に井伊直平、永禄七年に中野(井伊)直由と毎年のように当主が死んでいるのである。

つまり・・・ほとんど・・・当主不在と言っていいだろう。

虎松こと井伊直政が歴史の表舞台に登場するまで・・・井伊谷に「国」などなかったというのが実態である。

もちろん・・・永禄年間の遠江のあれやこれやは謎に包まれているので時空を越えたいろいろなことが起きうるわけである。

下剋上の波は全国津々浦々に広がっているのだ。その証拠に今川家の人質であり・・・今川義元の家臣だった松平家康が桶狭間の合戦から五年後には三河一国の支配者となっているのである。

そして、尾張国の織田信長と松平家康が同盟している以上・・・遠江国は家康の餌食に他ならない。

民が安寧に暮らせる「世」はほとんど絵空事なのである。

それでも・・・ちまちまと・・・井伊谷城周辺をなんとか治めようとする次郎法師は・・・けなげだと言う他ないのだなあ。そして・・・なんとか力になろうとして・・・最後は侵略者によって成敗されてしまう小野家当主は哀れなのだなあ。

で、『おんな城主   直虎・第13回』(NHK総合20170403PM8~)脚本・森下佳子、演出・渡辺一貴を見た。例によってシナリオに沿ったレビューはikasama4様を推奨します。戦国時代の経済というものを生産者(農民)、流通者(商人)、経営者(支配者)の関係性で語るというのはなんとなく「お勉強」の匂いがして好みが分かれそうなところでございますねえ。室町幕府体制が崩壊しつつある戦国末期ということでは・・・今川体制という地域経済的な室町幕府体制の根本維持かつ縮小化が失敗してしまうというのが・・・東海地方で起こったことのような気がいたします。一方で武士の作る政治というものは・・・合議制を基本としながら・・・結局最後は「腕力勝負」なところがございます。戦になれば勝負は時の運なので・・・勝ったり負けたりして・・・結果として無法地帯を生むことになるわけです。その中で切磋琢磨してある程度、統合されていった武士集団を・・・信長が「恐怖」で支配し、秀吉が「富」で支配し・・・そして家康が「安全・安心」で支配したというのが・・・自由で不安定な戦国時代の終焉のあらましでございます。このドラマの主人公は・・・不倫相手を幼馴染に殺されたことを恨み続ける情念の人の側面と・・・焼け跡からのし上がった経済やくざの指南役という側面を持っているような気がします。どう考えても混ぜると危険な気配がしますが・・・この脚本家は結構、凄腕なので・・・嫌な感じを漂わせつつ・・・それなりに名作に仕上げてきますよね・・・きっと。

Naotora013永禄七年(1564年)二月、 奥平貞勝・定能父子が松平家康に臣従する。永禄八年(1565年)五月、三好義継が二条御所を急襲し室町幕府第十三代将軍・足利義輝を殺害。足利義栄が第十四代将軍候補となる。織田信長は滝川一益に伊勢国攻めを命じる。松平家康は酒井忠次に命じ三河国吉田城の小原鎮実を攻めさせ開城させる。十二月、今川氏真は駿府で飯尾連竜を襲撃し成敗。永禄九年(1566年)、信長は美濃国の稲葉良通・氏家直元・安藤守就を臣従させる。家康は三河一国をほぼ制圧し正親町天皇より従五位下三河守に叙任され徳川姓を称する。四月、氏真は飯尾一族が籠城する曳馬城を開城させる。十二月、松平家康は三河一国をほぼ制圧し正親町天皇より従五位下三河守に叙任され徳川姓を称する。この頃、氏真は遠江国・駿河国の各地に徳政令を発布する。井伊谷の地頭となった次郎法師は遠江国引佐郡瀬戸村の商人・新田四郎右衛門(瀬戸方久)に借金の代償として瀬戸村の支配を委託(譲渡)することで徳政令の施行を実質的に回避する。

小牧山の山城で織田信長は尾張守を名乗っていた。

三河国より京の都に近い尾張国は支配関係が複雑である。尾張国を信長が完全に掌握しているとは言えず・・・朝廷に申し出れば叙任される可能性は高いものの・・・信長は時期尚早と判断していた。

桶狭間の勝利から六年・・・信長はひたすらに・・・武力の増強を求めている。

尾張守などでは・・・終わらぬ・・・。

信長の野望と・・・後の人が揶揄する志が・・・信長自身の心に芽生えている。

「今川義元を殺した男」として「悪名」を手にいれた信長は・・・じわじわと支配の輪を広げてついに伊勢国の一部と美濃国の一部に勢力を拡大していた。

小牧山城の奥庭は「御庭」と称されている。

二重の柵に囲まれ・・・東西に門があり・・・東門が外門、西門が内門である。

本丸から信長は渡り廊下で続く西門を通り・・・引見館に入る。

部外者は東門から入り・・・役人に導かれ「御庭」に参上するのだった。

「空蝉法師が参っております」

丹羽長秀が引見館の奥の間で休んでいた信長に告げる。

「であるか・・・」

信長は頷いた。

柴田勝家の足軽から右筆に抜擢された太田牛一を呼び・・・引見の縁に出る。

「御庭」には粗末な身形の法師が蹲っている。

空蝉法師は・・・信長の忍びの頭の一人である。

信長の頭脳は閃く。

「駿河はどうか・・・」

「氏真公は・・・盛んにお布令を出されております」

「安堵状の類か・・・」

「徳政令なども・・・さらに富士大宮の六斎市を・・・富士山本宮浅間大社の宮司・・・富士信忠に命じ楽市といたしました・・・」

「楽市・・・」

信長は楽市と言う言葉を脳内で弄った。

「近江の守護である六角定頼が観音寺城下に楽市令を布いたと・・・聞き覚えがある」

「商いをするものたちの・・・利をかすめ取る狙いでございましょう・・・」

「そのような甘きことにはならぬものよ・・・」

織田家は信長の父・信秀の代から・・・商人の飼い方を研鑽していた。

信長は利を重んじる商人たちの中から・・・行商人に身を落していた木下藤吉郎を抜擢した男である。

しかし・・・信長は「楽市」という言葉の響きを楽しむ。

「面白い・・・長秀よ・・・」

「は・・・」

「早速・・・清州の城で試してみよ・・・清州の座を解け」

信長が本拠地を小牧山に移したために・・・清州城下はさびれつつあった。

市場を解放してみるのも一興であった。

失敗しても損はないのである。

「御意」

「上手くいけば・・・他でも広めよ」

「御意」

「空蝉よ・・・遠江国はどうじゃ・・」

「氏真公と家康公の綱引きが続いておりまするが・・・」

「形勢はいかがじゃ」

「家康の伊賀者たちがよき働きぶり・・・」

「服部半蔵か・・・」

「氏真公は・・・先代に比べると・・・踊りますな・・・」

「傾いた家を建て直すのは・・・難いものよ・・・」

「まさしく・・・」

「遠江国にも・・・はたのものがおるだろう・・・」

「義元公は・・・太原雪斎の死後・・・忍びを軽んじたのでございます」

「であるな」

はたのものは・・・聖徳太子以来の・・・天皇の忍びの通称である。

聖徳太子が秦氏の諜者を使ったことによる。

秦氏は・・・表向きは機織りを生業としながら・・・裏では忍びとして全国に広がっている。

伊賀の服部氏はもちろん・・・織田家も・・・はたのものの流れを汲んでいた。

そこには独特の情報ネットワークがある。

太原雪斎はそのことを充分に心得ていたが・・・義元は表舞台に重心が傾きすぎてしまったのである。

忍びの力を軽視し・・・敗れ去ったのだ。

「氏真公が・・・小競り合いに夢中になっている間に・・・家康公は・・・秋葉の宮にまで手を広げておりまする」

「秋葉の宮・・・」

「遠江の修験のものたちのたまりでございます」

「であるか」

修験のものもまた・・・古来からの忍びの集団である。

信長は家康が・・・遠江国のしのびたちを再編しようとしていることを感じた。

はたのものたちも・・・全国に散り・・・すでに土着して糸が切れたものも多い。

しのびたちは・・・あるものは斥候の術を・・あるものは攻城の術を売り物にして領主に雇われるのが生業だった。

人を欺き・・・騙すのが習性のものたちを飼いならすためには・・・いくつかの忍びの群れを併用する必要があった。

だれが嘘をつき・・・だれがまことを申しているかは・・・情報を分析して判断する必要があったのだ。

家康は伊賀者を軸に・・・はたのものや・・・修験のものたちを巧みに取り込み始めているのだった。

信長はそれを読んでいるのである。

もちろん・・・家康にその術を伝授したのは・・・織田尾張守信長本人だった・・・。

「遠江国の井伊谷では・・・領主の娘が地頭を称しました」

「女・・・」

「おんな城主でございます」

「うつけたことよ・・・」

信長は微笑んだ。

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2017年3月26日 (日)

永禄五年、井伊直親死す(三浦春馬)

桶狭間合戦の余波は永禄五年の松平元康と織田信長の同盟により・・・三河国からの今川勢の撤退と・・・遠州錯乱とも呼ばれる遠江国の国人衆と今川家との関係悪化を本格化させる。

永禄五年十二月に松平家への内通を疑われた井伊直親が掛川城主・朝比奈泰朝に討ち取られたこともまた・・・真相の定かならぬことである。

しかし・・・これを契機に遠江国の国人領主たちが次々に謀反を疑われ・・・今川家の命令に従う国人領主たちと互いに争うことになるのである。

結果から見れば・・・今川氏真は自ら・・・防波堤となる遠江国の家臣たちを殺したことになり・・・今川家の衰退を早めるわけである。

しかし・・・負け組である今川家と最終的な勝者となる徳川家では・・・語りたい史実が変容していくのが歴史というものだ。

その中で・・・今川家中から・・・徳川家に乗り越えて・・・見事に戦国時代を泳ぎ切った井伊家の語る歴史もまた・・・いろいろと・・・怪しいものになっていく。

そんなわけで・・・本当のところがどうだったのかは・・・よくわからない永禄年間を・・・実際にいたのかどうかわからない井伊直虎が物語られていくのだ。

まあ・・・ある程度・・・なんでもありなんだな。

で、『おんな城主  直虎・第12回』(NHK総合20170326PM8~)脚本・森下佳子、演出・渡辺一貴を見た。例によってシナリオに沿ったレビューはikasama4様を推奨します。画伯の体調がよろしくないようなので心配である。素晴らしいインターネットの世界では・・・御尊顔を拝したこともないのに非常に親しいように感じる方々があり・・・時に心穏やかならぬ時もあるのだが・・・基本的には妄想である。時にはお会いしたいと思うこともないのではないが・・・会わぬことこそが・・・妄想世界を確実なものにすると考えもする。お互い遠い世界に住んでいて・・・十万光年くらいの距離があって・・・だけど親しみを感じる。それが素晴らしいインターネットの世界の醍醐味である。・・・まあ・・・キッドは隣に住んでいる人や・・・親戚・・・古くからの友人にも滅多にあわないのでのでございますけれど。この世には素晴らしいのかどうかよくわからない現実世界というものがあり・・・それは結構面倒くさいものなのである。そういう意味で・・・もう少しなんとか上手く立ち回れなかったのかと思う・・・井伊谷の人々にもやもやしても・・・それは誰かの妄想に過ぎないと思えばなんとかスルーできるわけである。総髪から月代になった小野政次があれほど批判的だった父・政直と同じ道を歩み始める因果に・・・戦国時代の悲哀を感じますねえ。そして・・・奥山朝利の娘婿がまたしても登場・・・。一部家系図的には・・・奥山親朝~奥山朝利~奥山朝宗(孫一郎)~奥山朝忠(六左衛門)と続くわけですが・・・親朝の娘たちと・・・朝利の娘たちは一部混交しておりまして・・・まあ・・・代変わりすれば・・・姉妹も・・・家中の女の一人になるわけですからねえ。朝宗と朝忠も父子とする説と兄弟とする説もあるようですしね。とにかく・・・奥山の女たちは・・・国人領主たちに嫁ぎまくっていることは確かなようです。ドラマの登場人物では新野左馬助は奥山朝利の義理の兄弟で、中野直由は義兄弟あるいは娘婿、小野玄蕃はほぼ娘婿、井伊直親は確実に娘婿、そして井伊谷三人衆の一人、鈴木重時も娘婿・・・。そんな奥山朝利を暗殺したとなれば小野政次は一族中の爪弾き確実でございましょう。そういうことがあってもおかしくない戦国時代ではございますが・・・少なくとも井伊家が仕立て上げた小野政次の悪名を・・・このドラマは払拭する気なのだと思う今日この頃でございます。

Naotora012 永禄五年(1563年)十二月、井伊直親が朝比奈泰朝に襲撃され討ち死に。永禄六年(1563年)正月、本證寺第十代・空誓が三河国で一向門徒を蜂起させ松平家康と対立する。本多正信、蜂屋貞次、夏目吉信など多くの家臣が家康に離反した。七月、織田信長は美濃国攻めのために本城を新築した小牧山城に移転する。九月、天野景泰・天野元景親子が今川氏真から離反した疑いで攻められる。犬居城を攻めた井伊直平は陣中で没した。永禄七年(1564年)正月、元康は馬頭原合戦で一揆勢を破り、一向衆門徒は和睦に応ずる。二月、北条氏康は下総国で里見義堯・義弘父子を撃破する。八月、上杉輝虎が五回目となる川中島の戦いに出陣、武田信玄と対峙。九月、氏真は謀反の疑いで曳馬城主・飯尾連竜を攻め敗北。井伊家目付・新野親矩、井伊家家老・中野直由が討死。幼少の井伊家当主・井伊虎松(井伊直政)は一族の守護者を失うことになる。この頃、井伊直盛の娘・次郎法師が井伊直虎を名乗り井伊谷城主になったという伝承がある。十月、上杉武田両軍は川中島から撤収する。氏真は飯尾連竜の姉を室とする遠江二俣城主・松井宗親を駿府に召喚しこれを謀殺した。

「氏真様は・・・御所の仇討ちをする気概もないのか」

井伊直親は馬上で呟いた。

井伊谷領の継承を安堵された御礼を言上するために・・・駿府へ向かう直親は前夜、掛川城の朝比奈泰朝の接待を受けた。

桶狭間の合戦で馬を並べた養父・井伊直盛の武者ぶりを泰朝が物語ったのである。

養父の無念の死に・・・涙した直盛は・・・仇討ちをしたいと感じたのだった。

氏真は一度は遠江国三河国の国境まで軍を進めたが・・・戦わずに兵を引いている。

「滅多なことを言うものではありませぬ」

直親の実の父である井伊直満の代から仕え・・・直親の信濃国亡命に十年も付き従った勝間田の忍びである今村藤七郎が直盛を諌める。

「しかし・・・あまりにも覇気がないことではないか」

「戦には潮時と言うものがございます」

「・・・」

「御所様も・・・尾張に織田信秀殿が存命だった頃には・・・苦戦なされておったとか・・・信秀殿が死んで・・・代替わりした時・・・御所様は一気に三河国から尾張国にまで進出なされた・・・」

「しかし・・・御所様はその信長に討たれてしまったではないか」

「だからこそでございます・・・誰もが御所様の勝利を疑わなかったところを・・・あえない御最後・・・世間は尾張の信長というものを天魔の如く惧れているのでございますよ」

「・・・」

「国衆は誰も負けるものに味方などしたくないのです」

「戦っても必ず負けるとは限らぬだろう」

「旗色が悪いのでございます。それが証拠に・・・御所様から元の字を拝領した松平様までが・・・織田に靡いたのです」

「松平元康など裏切り者ではないか」

「元康様の奥方は・・・殿と同じく直平様の孫にあらせられますぞ・・・殿は口が過ぎるのです」

「藤七郎とてそのように口がうるさいではないか」

直親は口をとがらせた。

すでに二十代半ばを越えているのに・・・直親は幼さを滲ませる。

家臣でありながら・・・永らく親代わりであった藤七郎には甘えたくなるのだった。

「しっ・・・」

藤七郎の顔色が変わった。

馬を飛び降りた藤七郎は地面に耳をつける。

「何者かがやってまいります・・・おのおの方・・・用心召されよ」

やがて・・・掛川城の方から騎馬武者の集団が現れた。

「肥後守殿・・・待たれよ」

直親を受領名で呼ぶ先頭の武者には見覚えがあった。

昨夜の接待の席にいた朝比奈泰朝の家来である。

「何事か」

「主の命により成敗いたす」

「何」

すでに背後の武者たちが弓を構えている。

次の瞬間・・・無数の矢が二十人ほどの直親主従に襲いかかる。

藤七郎は抜刀して矢を斬り払い主を身を持って庇うために跳ぶ。

無数の矢が藤七郎に刺さった。

「殿・・・お逃げくだされ」

振り返った藤七郎は直親が馬から崩れ落ちるのを見た。

直親の背には無数の矢が突き刺さっていた。

直親主従は前後を挟撃されていたのである。

無傷なものは一人もいなかった。

「何故じゃ・・・」

呻きながら身を起こそうともがく直親を横目に槍を構えた足軽たちに応じる藤七郎。

しかし矢毒がたちまち身体を痺れさせていく。

「殿」

藤七郎は槍に貫かれていた。

朝比奈泰朝が姿を見せた。

「せめてもの情けじゃ・・・」

泰朝は四つん這いになった直親の首を一刀両断にした。

泰朝の家来たちは・・・直親の郎党たちにとどめをさしていく。

たちまち・・・静寂がやってくる。

「井伊谷に使いを出せ・・・直親様は・・・野伏せりに襲われて・・・武運拙く亡くなられたとな」

泰朝の家来が首を塩漬けにするための甕を持って現れる。

泰朝は直親の幼名を知っていた。

「亀の首が甕に入る・・・か」

泰朝は乾いた笑みを浮かべた。

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2017年3月25日 (土)

殺らなければ殺られるだけの存在(綾瀬はるか)

物語の語り手が思うことと物語の聞き手が思うことが同じとは限らない。

人の心ほど定かならぬものはない。 

人間関係とはつまり主従関係である。 

夫婦にも主従があり、親子にも主従があり、友人にも主従がある。 

政治家にも主従があり・・・国家にも主従はある。 

主従関係がないということは敵対関係なのである。 

それではあまりにも荒涼としていると感じる人もいるだろう。 

もちろん・・・潤いというものは・・・そういう主従関係や敵対関係を越えたところにある。 

主人に優しくしてもらった奴隷・・・敵に助けられた味方・・・そこは泣くところである。 

日本が不自由極まりない国だと思って・・・外国に行けば・・・どれだけ不自由を感じることか。 

つまり・・・ファンタジーとはそれを明らかにする話なのである。 

ここではないどこかにもまた・・・いろいろ面倒なことが待っているに決まっているのだ。

で、『精霊の守り人II 悲しき破壊神・最終回(全9話)』(NHK総合20170325PM9~)原作・上橋菜穂子、脚本・大森寿美男、演出・中島由貴を見た。なんとなく・・・たくさんお金を使いました・・・という雰囲気だけが漂う本作品である。しかし・・・それはあくまでテレビ番組の制作費ということでは・・・という話である。あえて言うならば・・・お金のかかった少年ドラマシリーズというべきか。なんか・・・なんかな・・・ちゃっちいんだよな。それでも・・・ファンタジーをやろうという心意気だけは高く評価したい。

たとえば・・・船舶の発達の加減がわからない。

基本的には帆船時代なのであろう。

しかし・・・火薬の使用は限定的で・・・大航海時代には欠かせない大砲の搭載はないわけである。

タルシュ帝国の全人口はどの程度なのだろうか。

それに比べて新ヨゴ国の全人口はどうなのだろう。

大陸間の戦争となれば・・・海軍の輸送力が問われるわけである。

南北大陸に横たわるサンガル王国の海域はどの程度の広さなのだろう。

モンゴル帝国でさえ・・・日本海に遮られて・・・日本への侵略に失敗するわけである。

当時世界最強の武力を持っていた16世紀の豊臣秀吉軍も・・・朝鮮半島の征服には成功しなかった。

渡海の問題は・・・戦争の可否にそれほど影響するわけである。

まあ・・・他人の作るファンタジー世界に・・・リフリティーを求めても無駄なんだけどな。

Seireimap006 「私の可愛いチャグムに何をした」

バルサ(綾瀬はるか)の鉄拳を甘んじて受け入れたヒュウゴ(鈴木亮平)だった。

「・・・」

「やり返してはこないのか」

「私にはあなたと戦う理由がない」

「お前はチャグムの敵ではないのか」

「敵か・・・味方か・・・それしかないのですか」

「チャグムの敵は私の敵だ・・・用心棒とはそういうものなのだ」

「私は・・・タルシュ帝国の密偵ですが・・・同時に滅ぼされたヨゴ国の民でもある」

「・・・」

「私は・・・タルシュ帝国の密偵として・・・チャグム皇太子を追いつめた・・・しかし・・・同時に虜囚としての立場から彼を解放した・・・」

「死の淵に追い込んだことには変わりがあるまい」

「しかし・・・チャグム皇太子は・・・生き延びられた・・・」

「・・・」

「私は・・・見たかったのです・・・ヨゴの王家の血を引く若者が・・・これから何を成し遂げるのか」

「チャグムが・・・何をするかだと・・・」

その時・・・バルサは火の匂いを感じた。

「燃えている・・・これは・・・家に火をかけられたな」

「こんな街中で火攻めだと・・・」

「こちらへ・・・」

ヒュウゴは隠れ家の脱出路にバルサを導く。

隠れ家の裏手は路地裏に続いている。

反対側には火の手があがっている。

「こんなことをするのは・・・ロタの兵隊ではないな・・・」

「気をつけろ」

バルサは飛来する矢を短槍で打ち落とした。

「どうやら・・・狙いは俺のようだ」

「私についてこい」

バルサを次々に飛来する槍を払いのけながら・・・ツーラムの水路へと向う。

腿に矢を受けたヒュウゴを庇いつつバルサは小舟に乗り込んだ。

「水の流れはゆるやかだ・・・追手を逃れるためには上流に漕ぐしかない・・・」

なんとか・・・危地を脱した二人は水路から川へと小舟をこぎ進める。

「これで・・・腿を止血しろ」

バルサはヒュウゴに革ひもを渡した。

「すまない」

「矢を抜くぞ」

「・・・」

「毒が塗ってあるな」

「大丈夫だ・・・私に毒は効かぬ」

「そうか・・・」

「襲ってきたものたちの見当がついているようだな」

「弓を射ったものたちに見覚えがある・・・」

「・・・」

「あれは・・・ロタ王国に仕えるカシャル(猟犬)たちだ・・・」

「なるほど・・・俺をタルシュの密偵と知ってのことか」

「そこまではわからん」

「それにしても・・・さすがはバルサだな・・・顔が広い」

「カシャルたちの狙いを・・・確かめねばならない」

「俺がいては・・・まずいな」

「お前には・・・この舟をやる・・・しばらく・・・流れていくがよい・・・」

「よいのか・・・これは・・・チャグム殿下の救出のために用意したものだろう」

「私は今・・・懐が温かいんだよ」

「そうか・・・用心棒としてあなたを雇っているものは・・・二ノ妃だな」

「・・・」

「チャグム殿下に会ったら・・・一つ伝えてもらいたいことがある」

「なんだ・・・」

「新ヨゴ国とロタ王国の同盟が難しいと考えたら・・・ロタ王国とカンバル王国の同盟によって道が開けると」

「何・・・」

「カンバル王国と新ヨゴ国の間には・・・緩やかな同盟関係がある。カンバル王国とロタ王国が同盟を結ぶことが出来れば・・・三国同盟の目がある。そうなれば・・・タルシュ帝国にもうかつな武力行使には踏み切れぬ・・・」

「面倒な駆け引きだな」

「国と国との・・・争いなどというものは・・・面倒なものだ」

「・・・とにかく・・・お前の言葉は伝えよう・・・もう・・・行け・・・追手の匂いがする」

バルサは小舟を押しだすと・・・川面を歩きだす。

バルサは間合いを計って叫んだ。

「カシャルの方々とお見受けする・・・私の名はバルサ・・・私はカシャルと戦うつもりはない」

木陰からカシャルの弓手が現れた。

「バルサか・・・あなたの名前は知っている」

「私は・・・カシャルの頭に問いたいことがある・・・案内してもらえないか」

バルサは短槍を地面に刺し・・・敵意のないことを伝える。

「よかろう・・・しかし・・・この地にある隠れ里に行くためには目隠し願いたい」

「我が目を塞ぐがよい」

目隠しをすることは・・・相手に命を委ねることに等しい・・・。

カシャルの弓手が合図をすると・・・潜んでいたカシャルのものたちが姿を見せる。

「手縄をも必要だ」

「我が手を縛るがよい」

バルサは縛られて・・・カシャルの隠れ里に向う。

ツーラムの郊外にあるカシャルの隠れ里の頭領はアハル(中島唱子)と言う肥満した中年女だった。

縄を解かれたバルサは座る場所を与えられる。

「あんたが・・・バルサかい・・・あんたの名前は・・・王都のものから聞いている・・・御活躍だったそうじゃないか・・・」

「スファルとシハナには世話になった」

「困った父娘だよ・・・親子で割れてはお勤めに支障があるからね」

「・・・」

「それで・・・あの男とはどういう関係だい」

「あの男には・・・尋ねたいことがあったのだ・・・」

「何をだ・・・」

「私は・・・少年を捜している」

「あの男の正体を知っているのか」

「タルシュの密偵だと言っていた」

「正直だねえ・・・噂通りの人だね・・・あんたは」

「私の捜している人は・・・スーアン太守の城にいるらしい・・・何か・・・城に入る手立てはないだろうか」

「そういうことは・・・もう少し・・・気心が知れてから・・・頼むものだ・・・今夜はここで休んでお行き・・・私が手料理でもてなそう」

それを食べると・・・太るのではないかと思うバルサだった。

案の定・・・料理は美味だった。

もりびとシリーズの肥満体トリオ結成である。

四路街のマーサ(渡辺えり)・・・サンガルの女海賊(森久美子)・・・そしてカシャルのアハル・・・。

なんだろう・・・スタッフが肥満熟女好きなのか。

そして・・・四人目はスーアン(品川徹)の孫娘・ユラリー(信江勇)である。

実年齢が上から・・・渡辺えり(62歳)、森公美子(57歳)、中島唱子(50歳)なので・・・信江勇(28歳)は若手のデブっちょと言えるだろう。

しかし・・・ユラリーは年齢不詳である・・・おませな幼女のようなしぐさも見せるが・・・単に愚鈍なのかもしれない。

侍女から・・・新ヨゴ国の貴公子の噂を聞き・・・チャグムが軟禁されている部屋を訪れたユラリーだった。

「侍女から・・・素敵な人だと聞いて・・・会いに来たの・・・だって・・・侍女では高貴な方のお相手はつとまらないでしょう」

「あなたは・・・」

「私は・・・ユラリー・・・スーアン城の主・・・スーアン太守は私のおじい様なの」

「え・・・それでは・・・スーアン様にお引き合わせいただけますか」

「それは・・・無理なのよ・・・あなたの望みはかなえたいけど・・・」

「それでは・・・せめて城の外に出られないでしょうか」

「それはダメよ・・・お城の外は・・・危ないもの」

「・・・それでは・・・せめて・・・庭に・・・」

「お庭?」

「美しい夜の庭をあなたに・・・案内してもらいたいと」

「いいわよ・・・」

ロマンチックな気分でユラリーは蝋燭ひとつを灯し・・・チャグムと庭に出る。

チャグムは城壁の低そうな場所を求めて暗がりへと進む。

「ロマンチックねえ・・・」

「それでは・・・しばらく・・・目をお閉じください」

「まあ・・・」

ユラリーはうっとりとした顔で目を閉じる。

チャグムは蝋燭の火を消す。

しばらく・・・待って・・・ユラリーが目を開くとチャグムは姿を消していた。

「いやああああああああああああああ」

夜の庭に響き渡るユラリーの絶叫。

チャグムは壁を乗り越えようと足場を捜していた。

その時・・・背後からスーアン城の侍女(花影香音)がチャグムに声をかける。

「あ・・・お前は・・・お世話係」

「こちらへ・・・」

「・・・」

「城を出たいのでしょう」

「え」

侍女は・・・抜け穴を知っていた。

「なぜ・・・こんなものが・・・」

「私は・・・ロタ王に仕えるカシャルの女です」

「カシャル・・・ロタ王の親衛隊か・・・つまり・・・間諜か・・・」

城の外に馬が待っていた。

「準備がいいことだな」

「急いでお行きください」

「王都はどちらだ・・・」

「馬が知っています」

「ええっ」

「お気をつけて」

チャグムが騎乗すると・・・馬は走り出した。

まるで何者かに操られているように・・・。

動物使いのカシャルは・・・特別な力を持った呪術師でもあった。

チャグムの乗った馬を操るのは・・・アハルだった。

頭痛に顔をしかめてバルサは目覚めた。

「私に・・・薬入りの料理をご馳走してくれたのかい」

「ぐっすり眠れたろう」

「なぜだ・・・」

「チャグム皇太子は・・・昨日のうちに・・・城から逃げたよ」

「・・・」

「チャグム皇太子は・・・新しい・・・ロタ王と会いたがっていたからね」

「なぜ・・・私を眠らせたのだ」

「シハナがね・・・あんたを巻き込むと厄介だからって言うからさ」

「・・・」

「追えば・・・いいよ・・・ロタ王のもとで・・・チャグム皇太子に御目通りすればいい」

バルサはチャグムを追って馬を走らせた。

逃げたチャグムにはスーアンが追手を出していた。

タルシュにチャグムを匿っていたことが知られれば裏切り行為と見なされるからである。

スーアンの兵士たちは・・・王都の郊外の村でチャグムに追いついた。

チャグムは疲れ果てて粗末な宿で眠っている。

しかし・・・精霊の声が・・・危険を知らせるのだった。

目覚めたチャグムは暗殺者に包囲されていた。

「何者だ」

「死ね」

必死に暗殺者の剣から身をかわすチャグム・・・。

そこにカシャルのシハナ(真木よう子)が現れた!

「大の男がよってたかって・・・子供一人を襲うのかい」

「なんだ・・・この女・・・」

「ご挨拶だねえ・・・」

「邪魔すると・・・怪我をするぞ」

言った男はシハナの短剣に貫かれていた。

「こいつ・・・カシャルだ」

「そいつも殺せ」

殺到する暗殺者たち・・・。

しかし・・・バルサと互角に渡りあうシハナの敵ではない。

暗殺者たちはたちまち骸となった。

「あなたは・・・」

「私はシハナ・・・新国王・・・イーハン様に会いに来たのだろう」

「・・・」

「案内するよ」

チャグムが南北対立で揺れるロタ王国を彷徨っている頃・・・国境を封鎖した新ヨゴ国では星読博士のシュガ(林遣都)が帝(藤原竜也)が「星相」について奏上していた。

「ただならぬ・・・星相が現れております」

「申してみよ」

「吉凶が相克する相です・・・これは古きものが滅びる凶と新しきものが生れる吉のせめぎあう相なれば・・・」

「そのようなことは当たり前ではないか・・・」

「民のためを思えば・・・タルシュ帝国に降伏するのもまた道かもしれませぬ」

「そなたは・・・命が惜しいか」

「滅相もございませぬ」

「新ヨゴ国が滅びるのが天命ならば・・・民も国とともに滅びることこそ・・・美しいと思わぬか」

「・・・」

「朕は・・・新ヨゴ国を汚れなき世界へと導く・・・美しき帝になりたいのじゃ」

帝の言葉に逆らうものはなかった。

聖導師(平幹二朗)は密かにシュガを呼び出した。

「お前の申すことにも理があると思う」

「・・・」

「お前の教えを民に広めるべきだろう」

「私は・・・誰かが・・・そう言うのではないかと・・・密かに案じておりました」

「・・・」

「それが・・・内通者の証だからです・・・まさか・・・聖導師様が・・・」

「そうだ・・・私は・・・タルシュ帝国に通じておる」

「・・・」

「それとも・・・お前は・・・新ヨゴ国の民が・・・自分のことしか考えぬ・・・わが身のためにわが子を殺すこともいとわぬ・・・あの帝とともに滅びるのがいいと・・・思うのか」

シュガは絶句した。

王城のイーハンは物憂い日々を送っていた。

「シハナか・・・何をしにきた・・・そちらのものは・・・」

「新ヨゴ国のチャグム皇太子殿下でございます」

「チャグム・・・」

「イーハン陛下・・・お願いがあり・・・参上いたしました」

「チャグム殿下・・・そなたのことは兄から聞いている」

「では・・・」

「同盟はできぬと・・・兄も申していただろう」

「しかし・・・それでは・・・北の大陸はタルシュ帝国に蹂躙されます」

「だが・・・そなたの父の帝は・・・同盟を望まぬと聞いた」

「・・・」

「そのような状況で・・・皇太子殿下と何を約することができようか・・・」

「わかりました・・・では私はこれより・・・カンバル王国に参ります」

「カンバル王国に・・・」

「カンバル王に・・・ロタ王国との同盟を説きに参ります」

「なんと・・・」

「もし・・・それが・・・成功したならば・・・どうか・・・王にご同意願いたい」

チャグムは涙を流した。

「なぜ・・・泣く・・・」

「カンバル王と手を結ぶことは・・・恩ある人を裏切ることになるからです」

「それは・・・カンバル出身の短槍の名人のことか・・・」

「え・・・バルサをご存じなのですか」

「些少は・・・そなたの・・・望みは承った・・・しかし・・・カンバル王が応じることは万に一つもあるまい」

「だが・・・他に手立てはないのです・・・それが・・・私の考え抜いた答えなのです」

バルサが王都に到着した時・・・すでにチャグムはカンバルへと旅立っていた。

バルサをシハナが出迎えた。

「今度は・・・チャグムを利用しようとしたのか」

「いや・・・そのつもりはない・・・私は・・・イーハン王に仕える者として・・・チャグム殿下を案内しただけだ・・・南部のものたちに・・・チャグム殿下が利用されることを・・・避けたかったのだ」

「・・・」

「信じられないかもしれないが・・・私はバルサに感謝している」

「・・・」

「私は恐ろしい夢を見ていたのかもしれない・・・悪夢から救い出してくれたのはあなただと思っている」

「私は・・・ただ・・・」

「わかっている・・・バルサは幼きアスラをただ・・・守りたかったのだろう」

「・・・」

「しばし・・・待たれよ・・・」

「どうした・・・」

「王都のカシャルの集落が襲われた・・・父上が・・・」

カシャルが動物使いである以上・・・人に心を伝える術も持っているのである。

成り行きでシハナとカシャルの集落へと向うバルサ・・・。

集落の広場にシハナの父・スファル(柄本明)は吊るされていた。

「父上」

「来るでない・・・」

バルサとシハナに殺到する・・・襲撃者たち。

「南部のものたちか・・・いや・・・ちがうな・・・」

村に火を放つ火炎放射器を持った男たち。

「あれは・・・タルシュ帝国の武器らしい・・・」

「タルシュの密偵部隊が・・・こんなところに」

「バルサ・・・行け・・・チャグム殿下も追われているだろう」

「お前も逃げよ・・・」とスファルが呟いた。「儂が霧を呼んでやる」

スファルは死力を尽くして・・・霧隠れの術を使った。

たちまち・・・視界は閉ざされる。

カンバル王国へ続く山道を進むチャグム・・・。

精霊が危機を知らせる。

「追手か・・・」

馬が矢に貫かれ・・・チャグムは馬上から投げ出される。

チャグムは走って逃げ始める。

しかし・・・追手たちは剣を翳して迫るのだった。

絶体絶命・・・その時、のけぞったのは追手だった。

「その者に手を出すな・・・」

「バルサ・・・」

「いいかい・・・私の背中から離れるんじゃないよ」

「バルサ・・・」

「お前たち・・・退かぬなら・・・容赦はしないよ」

追手たちは退かなかった。

バルサは・・・封じていた全力を出す。

たちまち死体の山が築かれる。

無敵の短槍使いの復活である。

追手たちは全滅した。

「バルサ・・・どうしてここに・・・」

「チャグム・・・忘れたのかい・・・私はお前の用心棒だよ」

そして・・・物語は・・・漸く・・・最終章へと進むらしい・・・。

続きは・・・今秋である。

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2017年3月24日 (金)

将棋の女王によるチェスのナイトを用いたチェックメイト(仲間由紀恵)

好敵手である。

窮地に追いやられた敵のクイーンを・・・味方の騎士が・・・救出するという・・・チェスなのに将棋のような話なのである。

チェスも将棋も知らないという人のために念のために言っておくが・・・チェスは敵に殺された駒が盤上をただ去って行くのだが・・・将棋は敵に倒されても捕虜となるだけで・・・洗脳されて敵軍となって盤上に戻ってくるというゲームなのである。

将棋の駒に心があれば・・・敵が味方になり・・・味方が敵になるこの世の定めを・・・なんと思うのだろうか。

裏切り者のくせに・・・とか・・・仲間になれば頼もしい・・・とか。

冷徹非情に謎を解く杉下右京と・・・どんな人間も手駒にしてしまう社美彌子・・・。

二人の知的ダンスに・・・うっとりするしかないのだった。

で、『相棒season15 最終回SP悪魔の証明』(テレビ朝日20170322PM8~)脚本・輿水泰弘、演出・橋本一を見た。長い長い話である。しかも・・・登場人物の過去のエピソードが絡み合っているために・・・話は複雑である。ミステリ好きのための一話と言ってもいいだろう。二人のプレーヤーが一歩も譲らずに・・・最後の一手まで手の内を見せない好ゲームなのである。久しぶりに「相棒」でうっとりできたな・・・。

スパイ(工作員)と言えばジェームズ・ボンドことコードネーム007は英国のMI6所属である。米国にはCIAがあり、ソ連にはKGB(カーゲーベー)があった。日本には内閣府内閣官房内閣情報調査室があるわけである。いわゆる内調に警察庁のキャリアであった社美彌子(仲間由紀恵)は総務部門主幹として出向していた過去がある。つまり・・・日本版のスパイの一員だったわけだ。

「ロシアンタイムス」東京支局長という表向きでスパイ活動を行っていたヤロポロク・アレンスキー(ユーリー・B・ブラーフ)を巡る連続殺人事件で・・・国賊であるスパイの協力者を殺しの連鎖に巻き込んだ内閣情報調査室室長・天野是清(羽場裕一)は杉下右京(水谷豊)の追及で逮捕され収監されたが・・・今も裁判で係争中の被告人となっている。

杉下右京は・・・天野是清がなんらかの事情で・・・社美彌子を庇っているのではないかと疑っている。

ヤロポロク・アレンスキーは結局、米国に亡命した。

自称、ロマンチックな男・冠城亘(反町隆史)はヤロポロク・アレンスキーと恋に落ちた社美彌子がマリア(ピエレット・キャサリン)を出産した事実を胸にしまっているのだった。

つまり・・・かなり・・・複雑な前段があるわけである。

日本にスパイがいるなんて荒唐無稽な話だと思っている能天気な人々には少し難しいかもしれないわけである。

ふざけた顔でつまらないジョークを連発している米国人タレントがCIAのエージェントかもしれないなどとは・・・一般人は妄想しないものだからな。

おいおいおい。

そもそも・・・この局自体が親旧ソ連の牙城じゃ・・・もういいだろう。

心に「覗き屋」として変質的な歪みを抱え・・・杉下右京と冠城亘への偏執的な怨みを抱く警視庁生活安全部サイバーセキュリティ本部専門捜査官・青木年男(浅利陽介)は素晴らしいインターネットの世界のセキュリティーに対する甘さを露呈する冠城亘のパソコンに接触し、ハッキングのためのベースとしてバックドアを仕掛ける。冠城亘のパソコンを経由してピーピングトム青木が侵入したのは警視庁総務部広報課課長となっている社美彌子のパソコンだった。

青木は・・・Mのフォルダーに収められたマリアの画像にうっとりとするのだった。

青木の仕掛けたフォルダーの移動の悪戯に気付いた社美彌子はサイバーセキュリティ本部に相談する。

青木はハッキングの証拠を冠城亘のパソコンに残したまま・・・バックドアを閉じるのだった。

冠城亘は・・・元の上司である社美彌子のパソコンに対するハッカーとして嫌疑をかけられてしまうのである。

「冤罪です・・・第一・・・俺にはそんなハッキング能力はありません」

無罪を主張する冠城亘・・・しかし、部下の失策に・・・右京は「あることを証明するのは簡単ですが・・・ないことを証明するのは困難です・・・いわゆる悪魔の証明という奴ですねえ」と冷静に指摘する。

ここから・・・右京は可愛い部下の冤罪を晴らすために奔走するのだが・・・肝心の冠城亘にさえ・・・そう思われないのが人徳というものである。

やがて・・・未婚の警視庁キャリアに隠し子がいたという下世話な記事が写真週刊誌に掲載される。

冠城亘はますます窮地に追いやられる。

同時に・・・スキャンダラスな記事の主役となった社美彌子は女性キャリアに対して差別的な感情を持つ警視庁幹部に吊るしあげられる。

警視庁副総監・衣笠藤治(大杉漣)や警視庁刑事部長・内村完爾(片桐竜次)は「子供の父親」を追及するが・・・「プライバシー」を盾に口を割らない社美彌子なのである。

社美彌子をヤロポロク・アレンスキーの協力者として疑う法務事務次官・日下部彌彦(榎木孝明)には「よくやったと言いたいところだがやり方が粗雑だ」と叱責される冠城亘だった。

ロマンチックな冠城亘は「やったのは俺ではない」と社美彌子に直訴する。

ある意味・・・ものすごいピエロ・ポジションなのである。

なにしろ・・・謝罪している相手こそが事件の黒幕なのである。

一方・・・杉下右京は・・・「誰かに謎を仕掛けられたら挑まないわけにはいかない」と独自の捜査を開始する。

「マリア」の父親がヤロポロク・アレンスキーであることに言及する杉下右京に・・・ロマンチックな冠城亘は抵抗を感じるのである。

「俺には想像もつかないところから・・・真実を追求しているのでしょうが・・・社美彌子も人間だということを忘れないでください」

「想像もつかないなら・・・黙っていろ」

「・・・何様なんだ」

ここは上司と部下と言うよりは・・・超優秀な父親と不出来な息子の会話である。

「のってきましたね」と微笑む犯罪者出身の「花の里」の女将・月本幸子(鈴木杏樹)はニヤニヤするのだった。

なにしろ・・・今回の冠城亘はものすごくピエロであり・・・お茶の間の冠城亘応援団は・・・結末で苦い思いを味わうことになるわけである。

同性愛者であるために苦しい立場の警視庁警務部首席監察官・大河内春樹(神保悟志)はラムネを貪り食うのだった。

警視庁刑事部の参事官・中園照生警視正(小野了)は特命係に警視庁捜査一課・伊丹刑事(川原和久)と芹沢刑事(山中崇史)を配置する。

「週刊フォトス」の記者・風間楓子(芦名星)に「マリアの父親はヤロポロク・アレンスキーかもしれない」と伝えて反応を確認した杉下右京は捜一コンビに・・・風間記者の周辺調査を依頼するのだった。

やがて・・・風間記者の恋人・・・キング出版編集者の軍司森一(榊英雄)の存在が浮上する。

「警部殿の読み通り・・・軍司は東京大学将棋部で・・・社美彌子と先輩後輩でした」

「王手ですね」

「どういうことですか」と説明を求めるピエロ冠城亘・・・。

「つまり・・・これは・・・社美彌子の自作自演ということです」

「え・・・」

「情報を制するものは・・・世界を制しますからねえ」

やがて・・・「週刊フォトス」は「未婚の母の娘の父親はスパイだった」という衝撃記事を掲載するのだった。

再び・・・警視庁幹部は社美彌子を召喚する。

「もはや・・・プライバシーを盾にはできないよ」と衣笠副総監・・・。

「ヤロポロク・アレンスキーが娘の父親であることは間違いありません」

「由々しきことだ・・・」

「しかし・・・皆さんが想像しているような事情ではありません」

「何・・・」

「私はヤロポロク・アレンスキーに強姦されたのです」

「えええ」

当時の事情を知るものとして警察庁長官官房付の甲斐峯秋(石坂浩二)が現れた!

「私も驚愕した・・・しかも妊娠が分かり・・・出産すると聞いて唖然とした」

「しかし・・・中絶という選択もあったのではないか」

「生れてくる子供に罪はありませんから」

チェックメイトである。

けれど・・・セクハラ大王の内村刑事部長は下衆を極める。

「そんなこと言って・・・本当は和姦なんじゃないの」

だが・・・衣笠副総監は臭いものにふたをするのだった。

「諸般の事情を考慮して・・・この件は不問とする」

すべてはなかったことになったのであった。

「しかし・・・なぜ・・・彼女は秘密の暴露を・・・」とつぶやく

「ハッキングをされた時点で・・・自分の弱点の消滅を計画したのでしょう」

「公然の事実となれば・・・もはや秘密の意味はなくなる・・・」

「彼女は謎の解明へと私を誘い・・・まんまと目的を果たしたのです・・・そして君の罪はうやむやになった」

「・・・」

杉下右京の非情の調査によって自分が救われたこと悟る冠城亘・・・。

「しかし・・・ハッカーは誰なのでしょう・・・冠城くんの・・・パソコンに容易に接近できる人物が・・・結構・・・身近にいる可能性がありますね・・・ねえ・・・青木くん」

青木はじっとりと手に汗をかいた。

「右京さんを猟犬として使い・・・自分を守り切る・・・食えない女だ」

ロマンチックでピエロで負け惜しみの強い冠城亘だった。

社美彌子は愛するマリアのためにプリキュアの最新版ソフトを入手した。

マリアが・・・愛の結晶なのか・・・そうではないのかを証明するのは困難なのである。

愛国者と国賊の区別が曖昧なように・・・。

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2017年3月23日 (木)

海賊も用心棒も殺し屋ですが何か?(綾瀬はるか)

国会で都議会で・・・うさんくさい人がうさんくさい人たちからうさんくさい質問をされてうさんくさい答えをしている今日この頃である。

もちろん・・・世の中がうさんくさいので・・・それでいいのだろう。

うっかり・・・付き合っていると気が滅入るのでほどほどにしなければならない。

権力は腐敗するのが当たり前なので時々・・・膿を出すのは悪いことではない。

しかし・・・混沌とした世界情勢を前に・・・あまりだらだらとしているのは・・・それはそれで不安なのである。

隙を見せたらやられてしまう・・・すでにそういう時代じゃないのかな。

うっかり・・・負ける方につかないように・・・それだけが気がかりである。

それとも・・・いよいよ世界大戦争に突入なのかな・・・。

で、『精霊の守り人II 悲しき破壊神・第8回』(NHK総合20170318PM9~)原作・上橋菜穂子、脚本・大森寿美男、演出・西村武五郎を見た。人命尊重という理想から・・・最も遠いのが戦争行為であることは明らかである。しかし、理想はあくまで理想であり・・・現実的には21世紀になっても他国の国土を併合してしまう国家が国連の常任理事国であり、他国の領土を不法占拠している隣国や他国の人間を拉致して殺害する隣国が公然と存在しているわけである。盗賊から商人を守る用心棒が・・・殺人を後ろめたく思うようだと・・・専守防衛など成立しないことになる。「戦争で人を殺しても敗北しない限り罪には問われない・・・」ということを義務教育で教えることの是非が問われるわけである。先制攻撃した方が敗北した場合は・・・責任を追及されるし・・・先制攻撃をするような人々に負けた場合は想像するだけで恐ろしい・・・つまり・・・何が何でも負けられないのが戦争と言うものなんだなあ。必ず勝つとは限らないからなるべく戦争にならないように知恵を絞るべきなのだが・・・それはそれとしていつでも敵を殺せる準備はしておかないとねえ。

いつか・・・どこかの世界・・・。

北の大陸の・・・新ヨゴ国の西・・・カンバル王国の南に位置するロタ王国。

ロタ国王ヨーサム(橋本さとし)の崩御によって北部ロタと南部ロタの対立が深まっていた。

南大陸をほぼ制圧したタルシュ帝国は・・・北大陸と南大陸の狭間に位置する海洋国家サンガル王国をすでに傘下に収め・・・虎視眈々と・・・北大陸征服の時を狙っている。

南部ロタの太守スーアン(品川徹)は南部の領主たちの盟主として・・・タルシュ帝国と手を組み・・・前国王ヨーサムの弟・イーハン(ディーン・フジオカ)の王位継承に異を唱えていた。

ロタの被差別民タルの女トリーシア(壇蜜)と情を交わしたイーハンは・・・秩序を乱すものとして危険視されていたのである。

王の密偵組織であるカシャル(猟犬)も・・・穏健派の長・スファル(柄本明) と・・・その娘で過激派のシハナ(真木よう子)の二派に分かれて争う始末だった。

トリーシアの娘・アスラ(鈴木梨央)が精霊の一種で恐ろしい破壊神タルハマヤを宿したことにより・・・イーハンとスーアンの対立は決定的なものとなる。

サーダ・タルハマヤとなり・・・ロタの貴族たちを虐殺しかけたアスラを用心棒のバルサ(綾瀬はるか)が制止し・・・混乱するロタ王都を脱出する。

タルハマヤを拒絶したアスラは・・・意識を取り戻すが・・・言葉を失っていた。

バルサと薬草使いのタンダ(東出昌大) はチキサ(福山康平)とアスラの兄妹を連れて・・・ロタ王国と新ヨゴ国の国境の街・・・四路街へと退避する。

マーサの店に兄妹を預けたバルサは・・・新ヨゴ国の皇太子チャグム(小林颯→板垣瑞生)が暗殺されたと聞き・・・悲哀に襲われるのだった。

自分の大切な人を守り切れなかった無力感に包まれたバルサは・・・言葉を失い温もりを求めるアスラを残し・・・孤独の道を進む。

護衛士として・・・隊商の用心棒の職を求めて・・・口入屋に向うバルサ。

しかし・・・皇太子の死を受けて臨戦体制となった新ヨゴ国の国境は封鎖され・・・国王の崩御により喪に服すロタ王国の情勢も不安定となり・・・交易商人たちも商いを手控えていた。

「バルサ・・・当分・・・用心棒の口はないぞ」

「新ヨゴからロタへ向かう隊商がやってくるまで・・・待つさ」

「さて・・・そんなものが来るのはいつになることか・・・」

「・・・」

「すでに海の民はタルシュに下り・・・新ヨゴ国も滅んでしまうかもしれないという御時勢だ・・・」

新ヨゴ国の帝(藤原竜也)は・・・皇太子チャグムを軍神とするための儀式を行っていた。

「皇太子チャグムは新ヨゴ国にその身を捧げた・・・チャグムは神となった・・・軍神チャグムよ・・・新ヨゴ国を守りたまえ」

帝は陸軍大提督ラドウ(斎藤歩)に国境の封鎖を命じた。

「鎖国」によって・・・タルシュの侵略が納まるが如くの対応である。

しかし・・・タルシュ帝国の第二王子ラウル(高良健吾) がチャグムに告げた言葉が事実なら・・・すでにタルシュの触手は皇宮内に伸びているのである。

新ヨゴ皇国の星読博士シュガ(林遣都)は・・・それが誰かを推測する。

チャグム皇太子の死を受けて・・・皇太子の扱いとなったトゥグム(高橋幸之介)の教育係のガカイ(吹越満)は充分に怪しい。

帝を暗殺して傀儡の帝を立てるなら・・・チャグムよりもトゥグムの方が相応しい。

「シュガよ・・・よく・・・帝はお前をお許しになられたものだな」

「ガカイさんにお伺いしたいことがあります」

「なんだ・・・」

「ガカイさんは・・・次期聖導師になられるかもしれない」

「そうかもしれんな」

「ガカイさんは聖導師として・・・どのように国を守るつもりですか」

「シュガよ・・・我ら星読博士の仕事とは何か」

「星を読むことです」

「そうだ・・・我々は運命を読む・・・そして運命を変えるのは我々の仕事ではない」

「なんですって・・・」

「新ヨゴ国が滅びると星が告げるなら・・・その運命を受け入れるのが天意に適った生き方だ・・・」

「まさか・・・帝を裏切って・・・タルシュに従うのではないでしょうね」

「それを星が告げるのならな」

「・・・」

帝は命令に従ってチャグム暗殺を遂行したと報告する狩人頭のモン(神尾佑)を召喚した。

「モンよ・・・チャグムは・・・最後の瞬間・・・それを命じたのが・・・朕であることを悟っていたか」

「そのような・・・暇はなかったと思われます・・・チャグム殿下はあっという間に海の藻屑となりました」

「そうか・・・モンよ・・・汝のしたことを悔いる必要はない・・・チャグムはその身を捧げて新ヨゴ国を守護したのだ・・・それを悔いることは・・・軍神となったチャグムへの冒涜と心得よ」

「惧れ多いことでございます」

帝は微笑んだ・・・。

聖導師(平幹二朗)の寿命はつきかけていた。

しかし・・・シュガが秘事を打ち明けるとすれば・・・他に人はいない・・・。

「聖導師様・・・お知らせしたきことがあります」

「何事か・・・」

やつれた聖導師の顔に精気が蘇る。

聖導師は・・・秘密の通路を使い・・・後宮に潜入する。

チャグムを失ったと信じる二ノ妃(木村文乃)は奥に引き籠っていた。

「二ノ妃様・・・」

「聖導師・・・近う寄れ・・・もそっと・・・近う」

「チャグム様は・・・お亡くなりになっておりませぬ・・・」

「・・・」

「チャグム様は・・・生きておいででございます」

「なんと申した」

「チャグム様は・・・死んだとみせかけて・・・タルシュの手を逃れ・・・ロタ王国に落ちのびられたそうです」

「まことか・・・」

「嘘など申しませぬ・・・」

「チャグムが生きている・・・たった一人で・・・ロタにおると・・・さすれば・・・バルサを雇わねばならぬ・・・」

「バルサ・・・」

「狩人のジンを呼べ・・・」

「畏まりました」

ジン(松田悟志)は密命を受け・・・国境地帯へと旅立った。

バルサと別れ新ヨゴ国に向ったタンダは・・・国境封鎖の監視を逃れ・・・獣道をたどっていた。

そこで・・・タンダはジンと邂逅する。

「あなたは・・・狩人のジン・・・」

「タンダよ・・・バルサの居所を知らぬか・・・」

「まさか・・・あなたが・・・討手ですか」

「俺ではバルサを討てぬことは・・・お前がよく知っているだろうが」

「・・・」

「二ノ妃様からの仕事の依頼だ」

「お妃様から・・・」

「任務は・・・チャグム殿下の護衛だ・・・」

「チャグム殿下は亡くなったと聞いた・・・」

「生きておられる」

「えええ」

バルサは四路街の口入所でジンから・・・二ノ妃の手紙を受け取った」

「チャグムが生きている・・・」

バルサは腹の底からこみあげてくる衝動をこらえることができなかった。

バルサは笑った。

「アハハ」

「バルサ・・・」とタンダが人目を気にする。

「ハハハハ」

「バルサよ・・・引き受けてもらえるか」

「ハハハハハハ・・・・引き受けた」

バルサは前払いの報酬を受け取る。

「二ノ妃は・・・相変わらず気前がいいな」

「どうする」

「とりあえず・・・ロタ王国のツーラム港に向う・・・手紙にあるタルファの首飾りを換金していれば・・・足取りがつかめるだろう・・・」

「頼んだぞ・・・バルサ」

「ジン・・・お前は・・・タンダを新ヨゴに送ってくれ」

「え・・・俺を連れていかないのか」とタンダ。

「急がねばならんからな」

バルサはすでに馬市場に向っていた。

チャグムは海上で暮らす海の民ラッシャローの船にたどり着いていた。

ツーラム港を目指す算段をしているところで・・・海賊の襲撃を受けたのだった。

そうとは知らぬ・・・バルサはツーラム港の酒場を巡っている。

大衆食堂の店主(市オオミヤ)に情報を求めるバルサ。

「この街でお高い宝石がさばけるかい」

「この店は酒を振る舞う店だよ・・・そんなことを大声で言うもんじゃない」

「心配してくれてありがとう・・・邪魔をしたな」

バルサは釣りをしているのだった。

「宝石」という餌には・・・ならず者が食い付くのである。

しかし・・・店を出たバルサを追いかけてきたのはツアラ・カシーナ(海の恵を呼ぶもの)と呼ばれる海賊頭のセナ(織田梨沙)だった。

バルサを尾行したセナはたちまちまかれてしまう。

そして・・・セナは背後からバルサに問われるのだった。

「私に何か用かい」

「そういう店を知っている・・・」

「ほう・・・そうかい」

「私もその店のことを調べている・・・何か・・・わかったら教えてほしい・・・それが店を教える条件だ」

「ふうん・・・まあ・・・いいだろう」

「武器は持っていけない・・・私が預かろう・・・」

「・・・」

「合言葉は・・・ネズミが猫にご挨拶申し上げる・・・」

「店はどこだい」

「ついておいで・・・」

バルサは怪しい路地裏の盗品商オルシ(寺十吾)の店に入った。

「おや・・・メスのネズミか・・・」

「それが客に対する態度なのかい」

「おや・・・売り手かと思えば・・・買い手だったのか・・・何をお求めですか・・・お客さん」

「そうだな・・・たとえば・・・タルファの首飾り」

「・・・あなた様にお買い上げいただけるとは思いませんが・・・」

「あるのが・・・わかればいいんだよ・・・私が知りたいのは・・・それを持ちこんだ人間の情報だ・・・言い値で買うよ」

「お前は・・・何者だ」

「それは知らない方が身のためだよ」

「しゃらくせえ・・・少し痛い目に合わないと・・・」

目の前からバルサが消え去ったことに驚くオルシ。

しかし・・・その時には背後に回ったバルサに首を絞められていた。

「大人しくしていれば・・・苦しまずに済んだんだよ」

オルシの手下たちは武器を構えて近付く。

「待て・・・」

「ふふふ・・・わかるかい・・・首の骨が悲鳴を上げているのが」

「よせ・・・」

「海賊だ・・・」

「へえ・・・」

「赤目のユザンが・・・売りに来た」

「品物はどうした」

「スーアン城の若殿が買った」

「よし・・・ではこのまま・・・出口まで付き合ってもらおうか」

「・・・」

店を出たバルサは殺気を感じる。

解放されたオルシは手下の影に隠れて叫ぶ。

「生きて帰れるとでも思ったのか・・・」

「生かしておいた恩を仇で返すのかい」

「野郎ども・・・やっちまいな」

オルシの手下たちが殺到する。

しかし・・・バルサは素手で充分に渡りあうことができた。

男たちの攻撃をかわしながら路地を進んでいく。

その先に立つ男にただならぬ気配を感じたバルサは・・・拳を突き出す。

その拳を受けとめたのはラウル王子の密偵・・・ヒュウゴ(鈴木亮平)である。

ヒュウゴは凄腕で追手を食いとめるのだった。

「バルサ・・・こっちだよ」

セナがバルサの短槍を渡しながら導く。

「私を知っているのか・・・あんた誰だい・・・」

「私はチャグムの友達さ・・・セナって言うんだ」

「・・・」

バルサはセナと逃走を続ける。

「こっちだよ」

「赤目のユザンを知っているか・・・」

「知っている・・・同じ島の生まれだ」

「棲家は」

「案内しよう」

二人は闇に消える。

タルファの首飾りを売って・・・売春宿で大盤振る舞いをしたユザン(平山祐介)は一寝入りするためにアジトに戻って来た。

「おい・・・野郎ども」

様子がおかしいことに・・・酔いのため気がつかないユザンである。

見慣れぬ女の姿に・・・驚くユザン。

「なんだ・・・お前は・・・」

「遅かったじゃないか」

「お前・・・子分たちに何をした」

「お前の行く先を言わないもんだから・・・眠らせてやったよ・・・なかなか良い子分じゃないか」

「ふざけるな・・・」

「お前・・・タルファの首飾りをどうやって手にいれたんだい」

「タルファの・・・」

そこへ・・・軍勢がなだれ込む。

「なんだ・・・」

「お前のしでかしたことの報いなんだよ」

「あれは・・・ロタの兵隊じゃねえか・・・」

「逃げるんだ・・・裏口があるだろう」

「・・・」

兵士たちの数に怯えて・・・ユザンは逃げ出した。

追手を逃れる二人は袋小路の隠し扉を開いて待つセナに導かれて息をつく。

「一体なんだってんだ・・・」

「お前・・・チャグムをどうした」とセナ。

「チャグム・・・」

「十五、六の男の子だよ・・・そいつは私の大切な人なんだ」

「あのガキのことか・・・」

「お前が・・・ラッシャローの船を襲ったのは噂になってるんだよ」

「お前は誰だよ・・・」

「へえ・・・私の顔を知らないのか・・・それでも海賊のはしくれかい」

「え・・・あ・・・セナ様・・・ツアラ・カシーナがなんで・・・こんなところに」

「まさか・・・お前・・・チャグムを奴隷商人に売り飛ばしたんじゃないだろうね」

「あの首飾りをいただいて・・・港まで送っただけだよ・・・ガキは市場の方に歩いて行った・・・それきりだ」

「そうか・・・チャグムはそこで・・・ロタ王の崩御を知り・・・途方に暮れただろう」

「しかし・・・なんでロタの兵隊が・・・」

「お前の売った宝石は・・・売ったものの口封じが必要なものだったのさ」

「チャグムは・・・スーアン城に入り・・・おそらく軟禁されている」とヒュウゴが割り込む。

ヒュウゴに目配せされて・・・セナはユザンを連れ出す。

「命が惜しかったら・・・すぐに出港しな・・・」

「へい・・・」

「バルサさん・・・私がチャグムの友達というのは本当だよ・・・バルサさんは・・・チャグムに聞いた通りの人だった」

「・・・」

セナとユザンが部屋を出て行くと・・・バルサはヒュウゴに向き合う。

「お前は・・・タルシュの密偵・・・ヒュウゴなのか」

「ほう・・・そこまで御存じですか」

「お前は・・・チャグムの敵ではないのか」

「立場で言えば・・・敵ということになるでしょう・・・しかし・・・人の心は・・・そのように割り切れるものではありますまい」

「お前・・・チャグムに何をした・・・」

「私は古きヨゴの民として・・・殿下に寄り添い・・・時にはその命をお助けいたしました・・・そして・・・殿下の前で・・・処刑されるように仕向けたのです・・・殿下は私の命乞いのために屈服し・・・一度は帝の暗殺を請け負った・・・・」

バルサは・・・ヒュウゴが・・・チャグムの心を弄んだことを知った。

「酷いことをしたものだな」

「それが・・・唯一の・・・戦乱を避ける手段だったのです」

バルサは拳を繰り出した。

ヒュウゴはあえて・・・拳に顔を晒し・・・壁際まで吹っ飛んだ。

スーアン城に南部同盟の領主の一人アマン(緋田康人)が到着した。

「太守様・・・新ヨゴ国の皇太子を捕えたとは本当ですか」

「聞こえが悪いぞ・・・アマン殿・・・チャグム殿下は我が城にご滞在なされているのだ」

「しかし・・・」

「ユラリー・・・さがっておれ」

スーアンの孫娘ユラリー(信江勇)は父親の命じられるままに食卓から去った。

「すべては・・・わが息子オゴンの手柄じゃ・・・」

オゴン(富澤たけし)は微笑んだ。

「だが・・・新ヨゴ国の皇太子を匿ったとなると・・・タルシェには裏切り行為と責められるのでは」

「アマン殿・・・殿下はあくまで・・・取引材料じゃ・・・タルシュにはこう申すのじゃ・・・わが息子・・・アマンがロタの王座につきし時・・・チャグム皇太子を引き渡すと」

「ロタを総べるアマン国王・・・」

「うむ・・・よき響きじゃ・・・」

スーアン大領主を盟主とする南部同盟は・・・北部を制圧したイーハン王の王位継承を認めず・・・タルシュ帝国と組んで・・・ロタ王国の統一を目論んでいたのだった。

チャグムは・・・タルシュの虜囚から・・・スーアンの虜囚になったことにまだ気がつかない。

「いつになったら・・・スーアン太守に御目通りが叶うのか」

チャグムは与えられた客室で・・・侍女(花影香音)に問う。

「私に問われてもわかりかねます」

「一刻も早く・・・おとりつぎ願いたい・・・」

「ごゆっくり・・・お休みくだされませ」

「・・・」

チャグムは己の非力を噛みしめる。

バルサには幼い弟子の苛立ちが・・・手にとるようにわかっていた。

「チャグム・・・待っていろ・・・」

バルサはチャグムが幽閉されているスーアン城を見上げた。

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2017年3月22日 (水)

アリスとリスとレモンとパセリとコーヒーとミルクと死と乙女と黒と白とグレー(松たか子)

変則的な「精霊の守り人II 悲しき破壊神」と「おんな城主  直虎」を除くと2017年の冬ドラマのレギュラー・レビューもこれで終わりである。

珠玉の名作がラストを飾るのもなかなかに清々しい展開である。

視聴率的には*9.8%↘*9.6%↘*7.8%↘*7.2%↗*8.5%↘*7.3%↗*8.2%↗*9.5%↗11.0%↘*9.8%で平均視聴率が*8.9%という微妙な数字を残しているわけだが・・・まあ・・・そういう時代なんだな。

スポーツ中継延長で深い時間の方が視聴率が高かったり、最初と最後が同じというミラクルも達成している。

脚本・演出・音楽そして出演者が・・・相当なクォリティーであったことは間違いないだろう。

いろいろと含みを残した脚本のために・・・演出上のエラーである「時系列の不一致」が・・・「時系列の作為的な配置転換」という「奇妙な深読み」を始める視聴者も産んだりして・・・それだけ・・・お茶の間の妄想を膨らませる余地があった・・・ということだろう。

送り手側も「ミステリ」と言ったり、「ラブストーリー」と言ったり・・・見出しつけすぎの気配があったりもした。

終わってみれば・・・これは「人生の冒険の物語」であり・・・さらに言えば「心なき人々への警句」だったと思われる。

「ミステリ」で必ず「犯人」が告白するように・・・「ラブストーリー」で必ず「恋人たち」がキスするように・・・「人生」はチョロくないのである。

しかし・・・音楽を武器に冒険者たちは幸せな一時を過ごしていく。

コンサートでステージに空き缶を投げつけるような人でなしには・・・けして味わえない美しさとともに。

で、『カルテット・最終回(全10話)』(TBSテレビ20170321PM10~)脚本・坂元裕二、演出・土井裕泰を見た。名もなきカルテットが結成された最初の冬の始りから・・・カルテットドーナツホールが活動休止に追い込まれるまでの冬の終わりまでを一つの話と考えれば・・・前回が最終回である。十四年前に早乙女真紀になりすました山本彰子(松たか子)という第一ヴァイオリンが逮捕され・・・公正証書原本不実記載等の罪とともに不審死した養父の毒殺疑惑が表沙汰となり・・・物語はボーナス・ステージに突入するのだった。

「美人バイオリニストはなりすましだった」「戸籍売買の闇~十四年間他人の名前で結婚まで」「夫は強盗犯!犯罪者夫婦の痴情のもつれ」「疑惑の女・・・養父殺しの謎」「賠償金二億円!加害者家族を搾り取った女の転落」「疑惑のバイオリニストと奇妙な共同生活・・・カルテットの色と金」「世界の別府ファミリーの御曹司が食いものにされていた!」「うそつき魔法少女もいた黒いカルテット」「証拠不十分・・・執行猶予で野放しにされる魔女の恐怖」・・・週刊誌やワイドショーを賑わす・・・山本彰子とカルテットドーナツホールである。

裁判を終えた山本彰子は壊れかけた洗濯機とともに・・・人目を忍び・・・ひっそりと暮らしていた。

夏・・・である。

麦茶を飲み干す山本彰子には白髪が目立つ。

担当弁護士が山本彰子のアパートを訪問する。

「執行猶予もついたことだし・・・音楽活動を再開してはいかがですか」

「・・・」

「やはり・・・皆さんの元に戻るのは無理ですか」

「あの人たちは・・・受け入れてくれると思います」

「では・・・なぜ・・・」

「これから・・・私がどんな演奏をしても・・・犯罪者のシューベルトや・・・疑惑の女のベートーベンになってしまうでしょう。・・・それでは聴衆を心から楽しませることはできないと思うのです。私には灰色の音楽しか残されていないのです」

「・・・」

「カルテットドーナツホールは私に・・・最高のひとときをプレゼントしてくました・・・もういつ死んでも構わないと思うほどに・・・だから・・・もう充分なのです」

山本彰子はすでに・・・灰になる覚悟だった。

軽井沢の別荘では・・・第二ヴァイオリン・別府司(松田龍平)とヴィオラ・家森諭高(高橋一生)、そしてチェロ・世吹すずめ(満島ひかり)が第一ヴァイオリンの帰還を待っていた。しかし・・・裁判終了後に山本彰子が消息不明となり・・・気分はグレーなのである。

やがて・・・軽井沢には二年目の冬が迫ってくる。

細々と営業を続けるカルテットドーナツホール・・・。

「お肉の日」のイベントで演奏するために・・・ゲストのヴァイオリニスト・大橋エマ(松本まりか)を迎えるのだった。

「リムジンじゃないんですね」

カルテットのワゴンに違和感を感じるミニストップちゃんである。・・・いつの話だよ。

第一話で道を訊かれた女子大生と路上キスをして存在をアピールしていたヤモリは今回は犬のマリコにじゃれつかれていた。

宇宙の長澤まさみと会話するまでになった高橋一生の爆発ぶりに長年のファンが涙目の最近である。

ヤモリを「ユタカさん」と呼ぶ・・・別府。

別府を「ツカサくん」と呼ぶ・・・ヤモリ。

もはや・・・ユタカとツカサの時代に突入なのである。

ハイテンションのゲスト大橋は・・・眠り姫のすずめに驚く。

そして・・・コスチューム・プレイに激しくテンションを下げるのだった。

ツカサは牛・・・ユタカは鶏・・・すずめはピンクの豚の着ぐるみ・・・そしてゲスト大橋はコックさんの衣装なのである。

「こんなんじゃ・・・演奏できません」

「人間なのに・・・」

「恥ずかしくないんですか・・・皆さん・・・椅子取りゲームに負けたのにイスに座ってるフリをいつまで続けるつもりなんですか」

辛辣な批判の言葉を投げかけて去って行くゲスト大橋・・・。

「くずもちを残していってくれた」

「いい人だったね」

「すみません・・・お肉の日の仕事しかとれなくて・・・」

ツカサはユタカとすずめを練習に誘うが・・・二人は多忙だった。

カルテットドーナツホールの活動拠点だったライプレストラン「ノクターン」は色々あって・・・割烹ダイニング「のくた庵」に模様替えしていた。

シェフの大二郎(富澤たけし)は板前に憧れていたらしい。

ユタカは給仕人として週七日勤務しているのである。

すずめは「不動産屋」が店じまいするために・・・新たなる資格を獲得するべく徹夜で勉強をするのだった。

「すずめちゃんに・・・徹夜は似合いません・・・すずめちゃんに相応しいのは・・・二度寝」

すずめは微笑むが眠らないのだった。

「みんなおかしい・・・狂っている・・・まともなのは僕だけだ」

ツカサはドーナツ販売チェーン「ふくろうドーナツ」を退職して・・・無職になっていた。

ツカサは正しいキリギリス・・・働きまくるユタカや・・・徹夜で勉強するすずめは間違ったキリギリスなのである。

山本彰子という人間を何も知らずに「蔑む商品」として消費する酷い世間が一方にあり・・・そんな山本彰子に関わったすずめやユタカを雇用し続けた優しい人々がいる。

世界の別府ファミリーの恥部となったツカサに対して・・・別府ファミリーは冷たいようにも思われるが・・・冷酷そうな弟も・・・犬に噛まれたツカサに絆創膏を貼ってくれる優しさを持っている。

そして・・・別荘には買い手がつかない。

グレーな軽井沢は・・・白い冬へと向っている。

そして・・・第一ヴァイオリン不在のカルテットは・・・ひっそりと息をひきとろうとしていた。

割烹ダイニング「のくた庵」のランチタイム。

ツカサとすずめは食事をしてユタカは給仕をしている。

「ここが・・・こんな風になっちゃったの・・・僕らのせいですよね」

「マスターは・・・和食に憧れてたみたいよ・・・僕も板場で修業しないかって誘われてるの」

「えええ」

そこにハイエナ雑誌記者が現れる。

「ちょっとお話よろしいですか」

「・・・」

「山本彰子・・・例の件で・・・何か話していませんか」

「何かって何ですか」

「死んだ父親代わりの男のこととかね」

「・・・」

「ほら・・・うっかり口をすべらせるってことあるじゃないですか」

「その件は不起訴になったじゃありませんか」

「あなたたちだって・・・彼女に利用されたわけでしょう」

「そんな人じゃありません」

「これ・・・最新号なんですけど」

雑誌記者は醜聞写真週刊誌「flash」のような「fresh」を見せるのだった。

そこには・・・男性と路上でコロッケを食べながら笑う山本彰子の姿が盗撮されていた。

見出しは「白昼堂々コロッケデート・・・疑惑の女のふしだらな日常」などとスキャンダラスである。

「ねえ・・・どう思います」

カルテットはショックを受けた。

長い春雨を食べながらユタカはつぶやく。

「真紀さん・・・幸せそうだった」

春雨を鋏で切ってもらいながらすずめは反駁する。

「道端でコロッケ食べたら誰だって幸せになりますよ」

「じゃあ・・・僕とコロッケデートする?」

だが・・・一番ショックを受けたのはツカサである。

「解散しましょうか・・・」

「おやおや・・・コロッケデートシンドローム発症か・・・」

「仕事もないし・・・すずめちゃんは勉強ばかりしてるし・・・ユタカさんは毎日働いているし・・・マキさんは名前を変えたって平気で生きていける人で・・・もう次の人生を歩んでいる・・・僕だけが・・・同じ場所でじっとしているんだ・・・僕も・・・もう自分の中のキリギリスを殺すしかないでしょう」

すずめは階段を駆けあがりヴァイオリンケースを抱えて戻ってくる。

「私は・・・預かったんです・・・マキさんが帰ってくるまで・・・この子と一緒に待っているって約束したんです・・・解散するなら・・・このヴァイオリンをマキさんに返さないと」

「じゃあ・・・返しに行こうか」

「場所・・・わかるんですか」

「うん・・・」

ストーカーとしての能力を全開にするツカサだった。

素晴らしいインターネットの世界の風景が目に見える地図で「コロッケデートの場所」を特定するツカサ・・・。

「あ・・・なんか・・・似てる」

「あ・・・郵便ポスト」

「あ・・・ここ」

アリの群れが巣食う団地に到着するカルテット車・・・。

山本彰子は玄関のドアに書かれたへたくそな落書きについて管理人に詫びていた。

「すぐに消しますから」

「最初の字を大きく書き過ぎているよね」

山本彰子は洗濯をしながら・・・弁護士に電話をかける。

「ええ・・・あの記事で・・・住所を特定されたかもしれません・・・はい・・・御面倒をおかけしてすみません」

洗濯ものを干す山本彰子の耳に届く・・・「Music for a Found Harmonium(見つけたハーモニウムのための音楽)」・・・。

山本彰子はおびき出された。

山本彰子は走った。

山本彰子はお約束で転んだ。

団地の広場で・・・トリオは・・・団地の子供たちをウキウキさせていた。

すずめは・・・山本彰子に気がついた。

演奏が止まる。

山本彰子は立ち去ろうとする。

演奏が再開される。

山本彰子は立ち止り振り返り・・・手拍子を打った。

「こんなへたくそなカルテット見たことないわ・・・」

「第一ヴァイオリンがいないから」

「よく・・・人前で演奏できたわね」

「じゃあ・・・あなたが弾いてみせてよ」

「・・・」

すずめは山本彰子の手をとった。

その手は・・・生活のために痛んでいた。

すずめは山本彰子の髪を見た。

白髪が目立った。

すずめは山本彰子を抱きしめた。

「別府さん・・・車をお願いします・・・マキさんを連れて帰るから」

ユタカは山本彰子を背後から抱きかかえた。

後ろから前からハグされて・・・身動きのとれなくなった山本彰子・・・。

ツカサはハグに参加したい気持ちをこらえて車に向う。

捕獲したキリギリスを逃がすわけにはいかないのだった。

別荘にカルテットが帰って来た。

「マキさんのことはなんて呼べばいいですか」とユタカは訊いた。

「マキで・・・」

すずめとツカサとユタカとマキ・・・カルテットは四人になった。

四人はチーズ・フォンデュを食べる。

「マキさん・・・コロッケデートの記事・・・読みました」

「あれは・・・デートではありません・・・あの方はお世話になった弁護士さんです」

「ツカサくん・・・安心してる場合じゃないよ・・・コロッケと弁護士・・・最高の組み合わせだよ」

「・・・」

「ごはん食べた後・・・どうします」

「練習しますか」

ウキウキと食事を終える四人だった。

「イエモリさんはどうしているんですか」

「元のノクターンで給仕をしてます」

「すずめちゃんは」

「資格をとるために勉強中です」

「別府さんは」

「無職です」

「・・・」

「別にマキさんのせいじゃありませんよ・・・一年前にも話したじゃないですか・・・音楽を趣味にするか・・・仕事にするか・・・仕事にすれば・・・泥沼だし・・・趣味にする時期が向こうからやってきたというか」とユタカ。

「仕事のない日に・・・路上で演奏したら・・・楽しいかもしれません」とすずめ。

「でも・・・僕は夢を見ていて・・・損したと思ったことはありません・・・夢を見てずっと楽しかった」とツカサ。

不在の間に死にかかっているトリオの病状に気付くマキ・・・。

「コーン茶飲みますか」とマキ。

「コーン茶もうありません」

「じゃ・・・コンサートしましょうか」

「え」

「軽井沢の大賀ホールで」

「ホールの前で?」

「いいえ・・・ちゃんとステージで」

「いささか・・・キャパが大きすぎるのでは」

「あら・・・私を誰だと思っているの・・・世間を騒がせたニセ早乙女真紀よ・・・疑惑の美人ヴァイオリニストなんだからね」

「でも・・・それで集まるお客さんは・・・僕たちの音楽を聴きに来るわけじゃないですよね」

「だけど・・・伝えることはできるでしょう・・・」

「好奇の目に晒されてもいいんですか」

「そんなの気にならない」

「一人でも・・・二人でも・・・伝えることができるかもしれない」

すずめは最初にマキに共感した。

「私だって・・・うそつき魔法少女だから・・・あの人は今に出られます」

「僕も・・・世界の別府ファミリーの恥ですから」

「僕だって・・・Vシネ俳優だし・・・それなりに」

ユタカはともかく・・・集客力に問題のないメンバーなのである。

「シーズン・オフだし・・・ハコは安く借りられるはず」

「ですね」

こうして・・・カルテットドーナツホールは単独で「mysterious strings night(ミステリアスな弦の夕べ)」コンサート・・・入場料3500円を開催することにしたのだった。

「真紀さんて・・・結局無実だったのよねえ」と和装の女将となった谷村多可美(八木亜希子)が呟く。

「どうですかねえ」ととぼける従業員のユタカ・・・。

別荘の内見中の俗悪な顧客がすずめに問い掛ける。

「この辺にあの女が住んでいた別荘があったんでしょう」

「今でも骨付きカルビ食べながらその辺の電柱を蹴り上げているという噂ですよ」

カルテットは世間を煽った。

カルテットのホームページは炎上した。

そして・・・マキの目論み通り・・・チケットは完売した。

ユタカは・・・客が持ってきた手紙を多可美から預かった。

「これなんですか・・・」

「カルテットドーナツホール宛ての手紙だけど・・・読まなくても損はしないよ」

「でも・・・せっかくだから」と朗読を始めるすずめだった。「私は一年前にあなたたちの演奏を聴いたものです。率直に言って最悪の演奏だったと思います。あなたたちは素晴らしい音楽が生れる過程でできたゴミです。ゴミ焼却場で燃やされた排煙のような存在です。あるいは火葬場の煙突から立ち上る煙と言ってもいいでしょう。自分たちがとっくに死んでいるのに気がつかない。燃やされて煙になっているのにまだ演奏を続けている。なぜ・・・そんな煙の分際で・・・カルテットなんて続けているのでしょう。私は五年前に奏者であることわ辞めました。自分が煙だと自覚したから・・・私は問い質したかった。何故・・・あなたたちは煙のくせに演奏し続けるのか。そこにどんな意味があるのか・・・と」

カルテットはコンサートの演奏曲を決め・・・練習を開始した。

あっという間に当日がやってきた。

慌ただしい別荘の人々・・・。

全員が音楽に囚われた服役者のようにボーダーを選択してしまう。

「かぶってますね」

「着替えますか」

「時間がありません」

「私・・・寝ぐせが」

「楽屋で直せます」

「どうせ誰もみていません」

「誰も・・・」

スズメの乙女心を踏みにじるツカサである。

ハイエナ報道陣が待ち構えるホール通用口。

寝ぐせを気にしながら・・・すずめは駆け込んだ。

盛況のコンサート会場。

「大入り満員ね」と谷村夫妻。

アポロチョコを持っている男は「ふたりの夏物語」を聴いている。

ゆかりの人々が集う夜である。

長身の白人男性にエスコートされてリムジンから降りるのは・・・ゴージャスなドレスに身を包み・・・右手の薬指に綺羅綺羅しいリングを嵌めた来杉有朱(吉岡里帆)だった・・・。

「アリスちゃん」と絶句する谷村夫妻・・・。

アリスは笑わない目で勝ち誇る。

「人生、チョロかった・・・アハハハハハハ」

一部お茶の間は万歳三唱し・・・他人の成功を妬み嫉むことに執着する人は「アリス死ね」と叫ぶのだった。

とにかく・・・「元地下アイドルアリスの不思議な旅」は見てみたいものだな。

「トイレに行ってくる」

「僕も」

ツカサとユタカが出て行った楽屋で・・・すずめはブランクを乗り越えるために痣ができるほど練習したマキに問い掛ける。

「一曲目・・・どうして・・・弦楽四重奏曲第14番にしたんですか」

「弦楽四重奏曲第14番/フランツ・シューベルト」は第二楽章が歌曲「死と乙女」と同じ主題であるために「死と乙女」とも称される。

「好きな曲だからだよ」

「真紀さんのことを疑ってきた人たちは・・・別の意味にとりそう・・・」

「そうかな・・・」

「なんで・・・この曲にしたの」

「・・・こぼれたのかな」

あらゆる言葉にはあらゆる意味がある。

すずめとマキの間でこぼれるのは「好き」なので・・・そのまま・・・「死と乙女」が好きという意味になる。

しかし・・・マキの次のセリフが謎めかせるのである。

「内緒ね」

考えようによっては・・・「殺意」を仄めかしたことになる。

すずめは・・・マキの言葉をしばらく考えてから微笑む。

それが・・・「殺意の告白」に対する「暗黙の了解」かどうかも明らかではない。

なにしろ・・・すずめは・・・マキが人を殺していようがいまいが・・・気持ちが変わるとは思えないほど・・・マキの心に寄り添っているのだ。

四人はステージに立った。

野次を飛ばすものもなく・・・静寂が彼らを迎える。

おそらく・・・客席にはただならぬ空気が立ち込めている。

だが・・・少なくとも何人かは・・・カルテットドーナツホールの奏でる音楽を聴きにきたのである。

その代表が・・・ショッピングモールで「ドラクエのテーマ」を聴いた中学生の二人組と・・・カルテットをこよなく愛したアリスであることは言うまでもない。

そして・・・カルテットに辛辣なファンレターを書いたと思われる帽子の女・・・。

とにかく誰かを蔑みたい人々は・・・思ったより好意的な客層にたじろいでいたのだろう。

そしてステージのカルテットは「死と乙女」を奏でる。

こっちに来るな

お前は情け知らずの魔物

私はお前のものにはならない

私には素晴らしい未来がある

そのおぞましい手で

私に触るな

自分を抑えることのできない悪意の持ち主が空き缶をステージに投げつけるという暴虐を行う。

しかし・・・音楽の神に身を捧げる奏者たちは目もくれない。

あの日からカルテットの冒険は始った。

カラオケ店の通路は出会いの場・・・。

「ずっと奏者を続けるの」

「音楽で食べて行くなんて・・・無理でしょう」

「二十年弦を続けたけど好きになれなかった」

「ずっと一人でチェロを弾いていたのでプロになるのなんて・・・でも・・・弾いていて楽しくなって・・・お客さんが喜んでるとちょっと嬉しくなって」

「届いたなって思うのよね」

「届けましょうよ・・・私たちの音楽を」

私のさしのべた手をとりなさい

美しく可憐な乙女

私はお前を苦しめたりはしない

私はお前を安らぎに導く

怯えることなど何もない

騒々しいこともない

あなたはただ安らかに眠るだけ

誰もが逃れられぬ運命に抱かれ・・・やがて灰になるのである。

拍手がわき上がる。

衝撃の告白を求めてきたもの。

誰かの無様な姿を見たかったもの。

音楽が嫌いなものは・・・憤りに支配されて席を立つ。

自分たちが・・・少数者であることに怯えつつ・・・理解できないものから逃げ出す。

怒りと恐怖は同じ魔物から生じるのだ。

カルテットはドラゴンクエスト「序曲/すぎやまこういち」から「冒険の書」へと道をたどりセーブを行う。

カルテットのユーモアに浮き立つ聴衆たち。

中学生たちはニヤニヤして・・・アリスは受ける。

そして・・・カルテットの必殺技「Music for a Found Harmonium」が繰り出される。

カルテットは乗りに身を任せ・・・帽子の女さえ手拍子をするのだった。

何故、続けるのか・・・楽しいからに決まってる・・・なのである。

奏者たちは夢中になり・・・聴衆たちの心は躍り出すのだった。

空気が揺れ・・・「何か」が届いて心が震えるので。

別荘ですずめが目を醒ます。

不安がよぎる。

もしも・・・夢だったらどうしよう。

キッチンにはツカサとユタカがいて調理をしている。

しかし・・・すずめの不安はおさまらない。

飾られた写真を求めるすずめ。

ホールでの記念写真。

カルテットの雄姿・・・。

間もなく二階からマキが降りてくる。

すずめは安堵して微笑む。

よかった・・・夢ではなかった・・・私たちは大きなホールでコンサートをしたのだ。

カルテットは冬を乗り切ったのである。

「ごはんできたよ」

「は~い」

すずめとマキは唱和する。

おかずは唐揚だった。

小皿にレモンをとるすずめとツカサ。

しかし・・・ユタカは二人のパセリに対する態度を咎めだす。

「見て・・・これは何?」

「パセリ・・・」

「あまり好きではないので」

「・・・好き嫌いの問題じゃないのです」

お父さんの言いたいことを代弁するお母さんのように囁くマキ。

「パセリ・・・いるでしょう・・・彩りを添えているでしょう」

「・・・どうすればよかったんですか」

「サンキュー・・・パセリ」と囁くマキ。

「そうです・・・サンキュー・・・パセリ」

「あ・・・」

「あ・・・」

「パセリいましたね」

「パセリ綺麗ですね」

「センキューパセリ」

「そう・・・それでよろしい」

しかし・・・高圧的な父親に耐えきれずはしゃぎ出す末の娘のように・・・すずめは唐揚にレモンをかけまくるのだった。

「え・・・なにするの・・・謀反なの・・・革命なの・・・テロなの」

「いえーい」

お行儀の悪いのがキリギリスファミリーの嗜みなのである。

軽井沢に春が来た。

「熱海・・・」

「花火大会の演奏なんて・・・どうなの」

「聞こえるのかしら」

「町長が金色夜叉を長々と」

「それは火花」

「とにかく・・・初めての遠征ですから」

「行こう・・・カルテット」

別荘は売りに出ているが買い手はまだつかない。

カルテット車を・・・リスが見送った。

カルテットはドライブを楽しむ。

アリスもリスも可愛いし、レモンとパセリは唐揚にかかせない、コーヒーにミルクも悪くない、乙女もいつか死ぬし乙女でなくなってからでも死ぬ、そして白黒つけないグレーだって楽しめるのが大人というものだ。

しかし・・・ガソリンの切れた車がエンストすることは間違いなし。

たちまち・・・迷い出す冒険者たち。

砂浜をパーティーは右往左往する。

「あっちですね」

「いや・・・こっちでした」

「迷ったね」

「こんな見晴らしのいいところで」

すずめは笑いをこらえきれない。

「すずめちゃん・・・どうして笑っているの」

「急ぎましょう・・・間に合わないかもしれない」

「みぞみぞしてきました」

カルテットを見守るものは・・・寄せては返す波・・・。

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2017年3月21日 (火)

海の彼方から来た友達(木村拓哉)

男二人に女一人の三角関係からは「友情」が生じる場合がある。

もちろん・・・男と女の友情の場合もあるが・・・基本的には男と男の友情である。

ガールズトークに代表される「女たちの友情」がもてはやされる時代だが・・・実は男性同士の友情は・・・同性愛の場合も含めて・・・普遍的なテーマなのである。

シェイクスピアの「ジュリアス・シーザー」でも有名なガイウス・ユリウス・カエサルの「ブルータス、お前もか」というつぶやきは男同士の友情が前提なのである。友達だからこそ裏切られたショックは大きいのだ。

弱肉強食が強調される時代に・・・男同士の友情は成立しにくいわけである。

男同士はまず敵対関係が前提という哀しい今日この頃なのだ。

そこに激しく斬り込んだドラマだった。

終わってみれば・・・二人の男が篤い友情を確かめあう話だったのである。

もちろん・・・木村拓哉(44歳)・・・浅野忠信(43歳)・・・共に十一月生れというキャスティングなのだから・・・それはあらかじめ一目瞭然のことだったのだ。

たとえ・・・一光が深冬をどんなに愛していようと・・・壮大との友情の方が大事に決まっているのだった。

で、『A   LIFE~愛しき人~・最終回(全10話)』(TBSテレビ20170319PM9~)脚本・橋部敦子、演出・平川雄一朗を見た。男の子はポケットに手を入れたがるものである。母親にとってそれは面白くないことだ。ポケットに手を入れていては転んだ時に危険だからである。礼儀を重んじる人々の一部にはポケットに入れた手を不遜と感じるものもいるだろう。ポケットの中で手が何か危険なものを握っていることを恐れる人もいる。そのような白眼視を乗り越えても男の子はポケットに手を入れるのだ。何故なら・・・そこにポケットがあるからである。

なにしろ・・・ポケットの中には目に見えないビスケットが入っているのだから。

だから・・・男たるものは・・・大人になってもポケットに手をつっこむのが基本である。

「今すぐ・・・この病院を出ていきたまえ」

義理の息子に裏切られた気持ちでいっぱいの壇上記念病院々長・虎之助(柄本明)だった。

壮大(浅野忠信)に友達として裏切られた気がしている外科部長・羽村圭吾(及川光博)は告発する。

「君は壇上病院を乗っ取る理由を言った・・・手に入らないなら無くしてしまえばいいって」

壮大に愛人として裏切られたも同然の元顧問弁護士・榊原実梨(菜々緒)も断罪する。

「奥様の手術が失敗して死ねばいいっておっしゃってましたよね?」

「え・・・」

榊原弁護士の言葉に仰天する一同。

「いや・・・それは違うよ」と壮大。

「そうだ・・・必死にオペの準備をしていた」と壮大を庇う沖田一光(木村拓哉)・・・。

壮大は深冬を見る。

もちろん・・・深冬は・・・榊原弁護士の言葉を鵜呑みにしたりはしていない。

深冬は・・・壮大を信じ・・・手を差し伸べる。

だからこそ・・・壮大は・・・もはやその場にいたたまれないのである。

壮大は言葉を失い・・・部屋から退場した。

そんな壮大を追いかけるのは・・・一光なのである。

「壮大・・・待てよ」

「・・・」

「どこへいくつもりだ」

「出てけって言われたんだ・・・この病院を出ていくよ」

「深冬のオペ・・・どうすんだよ」

「お前がやれよ」

「本気で言ってんのか」

「さっきの話を聞いてただろう」

「・・・自分で救うって言ったろ」

「深冬も・・・院長も・・・み~んな・・・お前がいいって言ってんだよ・・・俺がお前だったら嬉しいよ・・・お前だって・・・俺の事笑ってたんだろう」

「じゃあ・・・何で深冬と抱き合ってたんだよ」

「・・・あれは違うよ」

「何が違うんだよ・・・もう誰も俺の事なんか必要としてない」

「そんな事ねえよ」

「カズ・・・お前に俺の気持ちわかるか・・・分からないよな」

「・・・」

立ち去る壮大の背中を見つめる一光である。

一光には壮大の気持ちがわからない・・・。

深冬と結婚して愛娘・莉菜(竹野谷咲)まで儲けた壮大は・・・一体何が不満なのだ・・・。

一光は・・・うらやましくてうらやましくて泣きたい気持ちだったのに・・・。

馬鹿じゃないのか・・・と思う他ないのだった。

榊原弁護士は・・・壇上父娘に副院長室の壁の穴を見せた。

「副院長の心にも・・・穴が開いていたんです」

「・・・」

外科部長は赤木(ちすん)やその他のドクターたちに・・・副院長の解任を伝える。

「僕も・・・この病院を辞めます」

「え・・・」

「結果的に・・・友達を売ったことになるからね・・・最低限の責任はとらないと」

一光は外科部長に問わずにはいられない。

「深冬先生のオペの前に・・・なぜ・・・あんなことを」

「・・・あの状態で・・・彼にオペをさせて・・・大丈夫だったと思うかい」

「・・・」

「君が来てから・・・彼は壊れてしまった・・・放ってはおけないよ・・・友達だからね」

壮大は音信不通になってしまった。

残された一光は予定通りに深冬の手術に挑むしかなかった。

手術の予定日は迫っていた。

ナース柴田(木村文乃)と井川颯太(松山ケンイチ)は一光に寄り添う。

「もう・・・七万回を越えてますね」

「え・・・そんなに」

「手術が遅れた分・・・結紮の練習は積めた・・・」

「どんなことにも・・・いい面と悪い面がありますよ」

「副院長と連絡は・・・」

「電話にもでないし・・・メールにも応答はない・・・」

壮大は・・・実家の鈴木医院に戻っていた。

すでに閉院され人気のない実家に一人・・・。

壮大に百点満点を求めた父親はすでに他界していた。

一光は緊張していた。

深冬を助ける自信が持てないのである。

もしも・・・自分がのこのこと帰国しなければ・・・院長は穏やかに死に・・・壮大と深冬は・・・残された時間を・・・仲睦まじく過ごしたのかもしれない。

そんな思いさえ湧き出る。

一光は救いを求めて一心(田中泯)の元へと帰る。

「いらっしゃい・・・なんだ・・・お前か」

「腹減った」

「しょうがねえな」

一心は寿司を握った。

「美味・・・」

「当たり前だろう・・・」

「無理すんなよ」

「お前がいつまでたっても半人前だからだよ」

「俺はいつになったら一人前になれんだよ」

「お前が手術してくれて・・・俺が寿司を握れるようになって・・・それをお前が食ってる・・・ありがてえことじゃねえか」

「・・・」

親馬鹿である。

一心の心意気が・・・一光の心をほぐす。

手術当日である。

「緊張してる・・・」

「ちょっとね・・・」

「緊張してるの」

「大丈夫」

一光は深冬に医師として微笑んだ。

颯太は一光を手術室へと送り出した。

「アシストバイパス併用頭蓋内腫瘍摘出術を行います」

出血後の深冬の腫瘍は三つに分離していた。

バイパス手術によって視野を確保し側頭開頭(サブ テンポラルアプローチ)によって腫瘍を摘出する手順である。

ドクターたちはモニターで経緯を見守るのだった。

「全ての神経繊維を温存する方法を取るので・・・術後の後遺症は一切想定していません」

100%を目指すことを宣言する一光・・・。

バイパスする血管の吻合は無事に終了する。

「さすがだ・・・」

「細いね・・・」

「心臓の血管の5分の1の太さだから」

「1ミリ以下か・・・」

ICG(蛍光血管撮影)を用いて血流部分を観察しながら腫瘍摘出へと移る一光・・・。

「一つ目・・・」

「はい・・・」

「二つ目・・・」

「はい・・・」

「側頭葉が腫脹している」

「最深部の腫瘍・・・見えますか」

「見えない」

モニター前のドクターたちに動揺が広がる。

「沖田先生・・・止まった」

手術室で立ちすくむ一光。

「VEP(視覚誘発電位)波高・・・50になりました」

「無理だ・・・」

「VEP波高・・・40になりました」

「何もできないまま・・・三分過ぎたぞ」とドクタールーム。

「沖田先生」とナース柴田が一光にタイムリミットを告げる。

「すまない・・・閉じるしかない」

一光は最後の腫瘍を取りきれずに手術を終えた。

一光は虎之助に状況を説明する。

「最深部の腫瘍が・・・視野から隠れてしまいました・・・再出血のリスクがありますので・・・脳の腫脹が収まり次第・・・再手術の実施が必要です」

「・・・できるのか」

「・・・」

できるかどうかではなく・・・やらなければ終わりなのだ・・・一光は唇を噛みしめる、

深冬は意識を取り戻した。

「ありがとう」

「腫瘍をとりきれなかった・・・」

「・・・壮大さんは・・・」

「・・・」

一光は・・・深冬の心を悟った。

一光は壮大にメールを送信する。

(腫瘍をとりきれなかった・・・深冬はお前のことを待っている)

颯太は一光を励ます。

「3分の2は取れたんですよね・・・だったら残った3分の1だって・・・」

「専門じゃない人は黙ってて」

颯太を躾けるナース柴田。

「専門じゃないか・・・」

「いえ・・・沖田先生のことじゃありません」

「・・・」

一光は・・・専門医である壮大のアドバイスを切望する。

しかし・・・メールへの応答はない・・・。

入院中の深冬に替わり莉菜の面倒を見ている・・・虎之助の妹である上野豊子(山口美也子)が一光を訪ねてくる。

「もしもの時に・・・莉菜ちゃんに渡して欲しいと・・・深冬から預かったのですけど・・・本当は壮大さんに・・・託したかったんだと思うんです・・・先生の方からお渡しいただけないでしょうか」

「・・・壮大に・・・」

見舞いにやってきた莉菜はむずがる。

「お父さんと一緒に帰る」

「お父さんはお仕事が忙しいのよ・・・」

「・・・」

一光の心は痛むのだった。

家族が帰った後に深冬に会いに行く一光。

「これを・・・預かった・・・」

「・・・沖田先生・・・私が壮大さんでなく・・・沖田先生に手術をお願いしたのは・・・もしもの時のことを考えたからなの・・・」

一光の中で・・・深冬への思いが断ち切れたのは・・・この瞬間だったのかもしれない。

深冬は一光の昔の恋人ではなく・・・壮大の妻であり・・・莉菜の母親だったのである。

一光は・・・古い卒業名簿を取り出した。

壮大の実家の住所をうろ覚えだったらしい。

「ああ・・・確か・・・あの辺だったよな・・・」

訪ねようと思えば・・・いつでも訪ねられたのだ。

壮大はそこにいるはずだと確信している一光。

しかし・・・まだ・・・どこかに・・・深冬に対する未練があったのかもしれない。

あるいは壮大に対する対抗意識が・・・。

しかし・・・もはやそんな場合ではなかった。

患者を助けるために・・・一途一心あるのみなのである。

「やはり・・・ここにいたのか・・・なにしてんだよ」

「お前こそ・・・何しに来た」

「深冬は・・・お前のオペでもしものことがあったら・・・莉菜ちゃんとお前の仲がこじれるんじゃないかって・・・心配して・・・俺を指名したんだよ」

「そんな肝心なこと・・・なんで俺じゃなく・・・お前に話すんだよ」

「あの時・・・話そうとしてたじゃないか」

「・・・俺はいつだって必要とされてないんだ・・・子供の頃からいつだってそうだ・・・お前はいいよな・・・みんなから愛されて・・・いつも必要とされてた・・・」

「おい・・・それは俺のセリフだろう・・・お前・・・俺の気持ちがわかるかって・・・俺に聞いたよな・・・お前には俺の気持ちがわかるのかよ・・・俺がどれだけお前のことをうらやましいと思ってるか・・・お前は昔から何でも俺より上手にできるし・・・その上・・・俺より何倍も努力家で・・・医師になってからだって・・・お前は俺にとって・・・ずっと雲の上の存在だった・・・シアトルに行ったのだって・・・ お前に追いやられたからじゃない・・・お前に追いつきたかったからだ・・・学歴もコネもない・・・俺には何もなかったから・・・深冬の事だって大病院の娘だし・・・将来の事を考えると自信が無かったんだよ・・・だから逃げたんだ」

「・・・」

「お前に価値がないなんて・・・お前だけが言ってることじゃないか」

「・・・」

「俺から見たら・・・お前なんて百点満点で百二十点だよ・・・だけど・・・俺だってシアトルに行ってなんとか・・・合格点とったかなって・・・ようやく・・・ギリギリでだよ・・・やっとだよ・・・そんな感じなんだよ」

「・・・」

「再手術は三日後だ・・・彼女はお前を待ってる・・・彼女を救うには・・・お前が必要なんだよ」

壮大は・・・去って行く・・・一光の姿を見つめた。

再手術当日。

一光は・・・友を待っていた。

開始時刻は迫っている。

もちろん・・・壮大はやってくる。

一光の心は喜びに満ちた。

我が良き友よ・・・である。

「壮大・・・」

「カズ・・・俺の気持ちを見せてやるよ」

一光は壮大を抱きしめる。

壮大は一光の背中を撫でた。

「三条さん・・・術衣をもう一着」

出番を確保したナース三条千花(咲坂実杏)は輝く笑顔で応じる。

「準備出来てます」

モニターで見守るドクターたちはどよめく。

「副院長・・・」

「残存腫瘍摘出術を開始します」

一光と壮大の負ける気がしないコンビ結成である。

「浅側頭動脈のバイパス手術から始めます」

一光の主導によるパイパス手術は滞りなく進む。

「パイパスペイテンシー(開通)に問題なし」

一光は主導権を壮大に渡す。

「それじゃ・・・残存腫瘍をとるよ・・・まず・・・左から行くか・・・右から行くか・・・決めるよ」

「見えますか」

「外側脊髄視床路が見えないな・・・錐体路も見えない」

「牽引するか」

「じゃ・・・尾頭から」

「尾頭から」

「ゆっくりだ・・・見えないな・・・頭側」

「頭側・・・」

「見えない・・・滑車神経側・・・」

「滑車神経」

「気をつけろ・・・すぐ錐体路だ」

「わかってる」

「みえてきた・・・これだ・・・まだ吸引するな」

「牽引限界です」

「剥離できそうだ・・・はがれてきた・・・いいぞ・・・」

「・・・吸引しますか」

「まだだ・・・はい・・吸引して」

「吸引します」

「とれたね」

「とれたとれた」

ナース柴田は摘出された腫瘍を受け取る。

「とれました」

モニタールームの外科部長。

「この二人・・・最強だね」

院長室の虎之助は腰を抜かしていた。

壮大は・・・「ありがとう」と言い残し・・・手術室を退出する。

「面倒くさい人ですね・・・」とナース柴田は印象を述べる。

一光は頷いて壮大を追いかけた。

「俺一人じゃ・・・厳しかったよ」

「別にお前を助けるためにやったわけじゃないぜ」

「・・・」

「・・・」

「だけど・・・お前は最高だよ・・・外科医として」

二人は視線を交わした。

深冬は意識を回復する。

「神経をどこも傷つけずに・・・腫瘍を全部取りきれた」と一光。

深冬は微笑む。

「壮大と一緒にオペをした・・・あいつは・・・誰よりも深冬のことを大切に思ってる・・・だから・・・大丈夫」

一光は一心におねだりをした。

「また・・・ちょっと家をあけるよ」

「お前が家にいたことなんてないだろう」

「親父のことは壮大に頼んであるから・・・なんかあったら・・・我慢なんかしないで病院に行ってくれ」

「・・・・」

一心は鯛茶漬けを振る舞った。

「美味・・・」

占領していたドクタールームを整理する一光。

手伝うナース柴田。

「柴田さん・・・本当にありがとう・・・結構・・・プレッシャーだったでしょう」

「いえ・・・私・・・沖田先生とオペしている時の自分が一番好きですから」

「沖田先生・・・シアトルに戻るんですか・・・」と颯太。

「うん・・・」

一光は・・・ナース柴田を手放すのは惜しいと少し考える。

しかし・・・ナース柴田は先手を打つのだった。

「この病院には私に出来る事がまだまだ沢山あるので・・・私はここに残ります・・・また一緒にオペ出来る日を楽しみにしています」

「私事ではありますが・・・オレも留学を視野に入れる事にしました」と颯太。

「へえ・・・」

「修行をして・・・それから経営者としての勉強もします」

「どっちもか」

「医者としても経営者としても理想の病院を作ります」

「理想の病院って・・・」

「医師が患者のために全力を尽くせる病院です」

「なるほど・・・」

「だから・・・柴田さん・・・オレについてきてくれませんか」

「その手をお放し・・・」

「・・・はい」

一光は微笑んだ。

医師としては一人前だが・・・男として・・・まだまだな一光なのである。

深冬の病室に壮大が姿を見せる。

「深冬・・・」

「壮大さん・・・」

深冬は手を差し伸べる。

その手にしがみつく壮大。

壮大の両眼からあふれる涙・・・。

二人の姿に・・・院長は引退を決意する。

壮大は外科部長を説得した。

「副院長をお願いできるかな・・・」

「え・・・」

「俺が・・・明日から・・・院長だ」

「どうして」

「友達じゃないか」

「君に服従はしないけど・・・いいのかな」

「友達だからな・・・」

一光は旅立った・・・。

深冬は回復し・・・莉菜と散歩に出かけるまでになった。

「ねえ・・・ママ・・・海の向こうには何があるの」

「いろいろなものがあるわよ・・・そして素晴らしい人もいるの」

「本当・・・」

「見てみる?」

深冬は莉菜を抱き抱える。

「わあ・・・広い・・・お船が見えるよ」

・・・榊原弁護士は外科部長のアドバイスに従った。

「たとえ・・・誰かに裏切られても・・・素直な気持ちで前を向くしか・・・結局・・・出来ないんじゃないのかな・・・友人として・・・君に言えることはそれだけだね」

同じ男を愛した二人だった。

榊原弁護士は父親(高木渉)の職場を訪ねた。

榊原達夫は笑顔を見せた。

父の笑顔に・・・娘は笑みを返した。

シアトルの一光は今日も執刀医として手術室にいる。

職人の道に終わりはないのである。

関連するキッドのブログ→第9話のレビュー

Alife010ごっこガーデン。愛と宿命の廃病院セット。

アンナいや~ん。ワンチャンスあったのは壮大だったのぴょ~ん。ナース柴田さんにもチャンスはあったのに・・・恋愛下手のドクター沖田設定だったのでしたぴょん。 澱んだ親友の心をひっかきまわして風のように去って行ったけど・・・ドクター沖田はアンナの心も奪っていったのぴょんぴょんぴょ~ん。 病気にならなかったら・・・深冬はよろめいたのでしょうか・・・それは誰にもわからない・・・いや・・・莉菜ちゃんいるからな・・・でも・・・榊原弁護士との一件がアレなので・・・ないこともないのかなあ・・・人の心も・・・運命も・・・ちょっとしたことで大きく変わる・・・そんな気がした最終回なのでした・・・そして・・・余韻・・・また余韻・・・じいや・・・お寿司握って~

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2017年3月20日 (月)

永禄五年、松平元康・織田信長同盟す(菜々緒)

寛永元年(1624年)、松下常慶(安綱)は六十七歳で死んだと言われている。

逆算すると永禄元年(1558年)生れであり・・・井伊直親が暗殺される永禄五年(1563年)十二月には数えで五歳である。

念のため・・・。

もちろん・・・永禄年間の遠江のあれやこれやは謎に包まれているので時空を越えたいろいろなことが起きうるわけである。

石川数正は天文二年(1533年)生れで永禄五年には三十路であるが・・・天文十八年(1549年)に松平元康が今川家の人質になってから近侍しているために・・・十年以上、駿府ににいて・・・夫人となった瀬名たちの事情にも通じていたわけである。

永禄五年(1562年)二月、元康が三河国上ノ郷城を攻め、鵜殿長照を討ち取り、長照の子である氏長、氏次兄弟を捕虜とすると元康妻子との人質交換の使者として数正が選ばれたのはそのような経緯がある。

元康の物語ではないので・・・織田信長との清州同盟が描かれないのはいいとして・・・その結果、織田方だった久松俊勝に嫁いでいた元康の実母・於大の方が松平家の奥の事に影響力を振るうようになったことは描いた方が良かった気がする。

今川系の嫁と・・・織田系の姑の軋轢が・・・瀬名母子の別居生活の理由だからである。

正室と嫡男を自害させるという「徳川家康」の暗い影の発端なのである。

戦塵渦巻く三河遠江国境を越えて次郎法師が右往左往するのはかなり笑えるとしても。

愛する男の死後・・・井伊谷のわがまま姫がどのように変貌するのか・・・不気味である。

で、『おんな城主  直虎・第11回』(NHK総合20170319PM8~)脚本・森下佳子、演出・渡辺一貴を見た。例によってシナリオに沿ったレビューはikasama4様を推奨します。元康が碁盤を戦略地図に見立てて支配の構想を練るというのはなかなかに鬼気迫りますな。次郎法師が岡崎城外の惣持尼寺の門をたたき「私の愛した人が殺されちゃうの・・・瀬名・・・ここをあけろ」というのも同様にホラーと考えればそれなりに笑えるのでございますよね。駿河国駿府城から遠江国龍譚寺、そして三河国岡崎城へと・・・次郎法師が三国を突破していく冒険活劇にすればかなりワクワクいたしますけどねえ。なにしろ・・・桶狭間の合戦直後の・・・ここは戦国時代真っ只中なのでございますから。偽物元康による奇想天外な謀略はなかなかにドラマチックですが・・・そこまで絵空事をするなら・・・もう少し次郎法師がくのいちでもよかったような気がします。出番は多いのですが・・・次郎法師は凄いというよりもやることなすこと裏目に出てるというところが・・・「白夜行」のヒロインと同じじゃないかとも思う今日この頃です。まあ・・・どうしても戦国三角関係ラブロマンスを描きたいなら・・・しょうがないなあ・・・とため息をつくしかないのでございます。

Naotora011 永禄五年(1562年)正月、松平元康は伯父・水野信元の仲介で織田信長と同盟する。二月、松平元康は実母の夫・久松俊勝と共に三河国上ノ郷城を攻め、鵜殿長照を戦死させ、長照の子・氏長・氏次兄弟は元康の捕虜とする。三月、石川数正が氏長・氏次兄弟と元康の正室・瀬名姫と嫡男・竹千代そして長女・亀姫の人質交換に成功。娘婿の離反の責を問われ、関口親永は正室とともに自害。瀬名姫母子は岡崎城外の惣持尼寺に隠遁。元康の異父弟・松平康元が上ノ郷城主となる。元康の叔父・水野忠重が鷲塚城主となる。義理の叔父である酒井忠次が元康の家老となる。吉良義昭の兄・義安が元康に臣従。美濃国大御堂城主の竹中重元が死去し、重治が相続。この頃、もしくは十二月に今川氏真に謀反を疑われた井伊直親は弁明のために駿府に召喚される。一説によれば家老・小野政次が疑いが晴れたと伝えたために召喚に応じたとされる。直親はこの道中、氏真の命令に従った掛川城主・朝比奈泰朝の軍勢に包囲され討死した。

今川氏より松平元康が独立し、三河国内の今川勢力を駆逐し始めた反乱は遠江国の国人領主たちにも波及していた。

三河国の今川勢は吉田城の小原鎮実を残すのみである。今川家当主の氏真は臣下の離反を抑えるために画策し・・・遠江国内には疑心暗鬼が横行する。

桶狭間の合戦で総領家の井伊直盛を失った井伊家でも求心力が低下し、直盛の遺言により家老となった分家の中野家と直盛の養子・直親の妻の里である奥山家の間に確執が生じている。

義元の元で緩やかに進行していた井伊家の分断が氏真によって強引に推進され・・・結果として今川家の遠江支配は崩壊していくのである。

元康の放った伊賀の忍びたちは遠江国をゆっくりと蝕み始めていた。

曳馬城の飯尾連竜、二俣城の松井宗恒、犬居城の天野景泰らの動静は定かではない。

氏真は二俣城に鵜殿長照の遺児である氏長を送り込んだ。井伊谷の西方の奥山は天野景貫に与えられていたが・・・東の天野本家と井伊を挟撃する姿勢を見せる。曳馬城の飯尾連竜の正室・お田鶴の方は長照の妹とされるが・・・その素性には諸説がある。義元の養女とされた関口親永の妻が井伊直平の娘であったように・・・永禄期の遠江国は謎に包まれているのである。

瀬名とお田鶴の方は姉妹だったという説もあり・・・そうなればお田鶴の方もまた直平の孫ということになる。

戦国時代には同族相討つ悲劇は珍しくないが・・・義元の戦略を踏襲した氏真の国人領主の分断策は完全に裏目に出る。

家臣に家臣を討たせる戦略により・・・遠江国には今川家の臣下がいなくなってしまうのである。

元康は忍びを使い・・・箍の緩んだ小領主たちに餌を撒いていくのである。

遠江国頭陀寺城主の松下氏は秋葉権現の修験者しのびである。

当主の松下嘉兵衛之綱の妻は松下連昌の娘である。

之綱の父・長則は槍術の達人だったと言われる。

松下連昌と松下長則はどちらが本家でどちらが分家か定かでない同族なのである。

松下家には早くから織田家の手が入っていた。

織田家の足軽の子息である日吉丸が奉公に入っていたのは偶然ではないのである。

修験者しのびとして松下連昌の子・常慶安綱が頭角を現すのは間もなくのことであった。

信長と同盟を結んだ元康は・・・伊賀の忍び・服部家と結び・・・忍びの組織化を進めていた。

織田家から松下家を引き継ぎ・・・元康は遠江国の忍び組織を拡充する。

忍びたちは・・・芸を売りにし・・・各地を放浪するものもいるが・・・土着して・・・草となるものもいる。

松下家は双方の色合いを持った忍びの一族だった。

遠江には他に秦氏の出自を持つ勝間田の一族がある。

秦氏の忍びは聖徳太子の時代にはすでに発生している。

伊賀の服部家もまた・・・その末裔なのである。

勝間田の一族からは武田信玄の配下となった小幡虎盛や・・・井伊直親を信濃国伊那郡松源寺に落ちのびさせた今村藤七郎正実が出る。

本来・・・井伊氏は天皇の忍びの一族である。

井伊介として遠江国の忍びを総べていたものが・・・今は国人領主として・・・忍び属性を薄れさせているのである。

松下の忍びも・・・勝間田の忍びも・・・かってはその支配下にあったのである。

二俣城の松井一族も・・・松下の井伊の名を残す。

曳馬城の飯尾一族も・・・井伊の緒なのである。

やがて・・・譜代ではない井伊直政が・・・徳川四天王の一人として名を挙げるのは・・・遠江から信濃、甲斐、駿河に広がる井伊介ネットワークを再構築したからに他ならない。

くのいち次郎法師の物語は・・・その基礎を築く話なのである。

氏真に欺かれ・・・命を落す直親は・・・その捨て駒に過ぎないのだった。

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